スクアーロの最後の包帯が取れた。大分前から車椅子は用無しになって早く任務がしたいとバカの一つ覚えみたいに繰り返していたが、どんなに元気そうに見えても包帯という怪我の象徴があるかぎり、私はスクアーロがずっと心配だった。全治するのに四ヶ月はかかった。寒い冬はこいつの病室で点滴の音を聞きながら過ごした。二度目の大きな失敗に一応落ち込んだりしていたみたいで少しの間は静かだった。


「はぁ…やっと治ったのね。」
「もうとっくに治ってたがなぁ。なまえがうるせぇからおとなしくしてただけだぁ。」
「相変わらずなまえの言うことだけはちゃんと聞くんだな、スクアーロ。」
「跳ね馬!何しに来やがったぁ!」
「おいこらバカ鮫、まずはお礼を言え。この馬は命の恩馬だぞ。」
「なまえ本当にそう思ってるか…?」
「思ってるよ!ディーノが助けてくれなかったらスクアーロはたぶん死んでた。本当に、感謝してる。」


私たち三人は同じ学校出身で、まさかマフィアになってもこんなに近しいとは思わなかったけど、それなりにお互いのことを分かってる。ディーノはたぶん、私とスクアーロの感謝の念くらい容易に理解できるだろう。

「なまえの感謝の意は身体で示してくれればいいぜ。」
「はぁ?なにそれ性的な意味?労働的な意味?」
「俺は前者希望。」
「ゔお゙ぉい!跳ね馬てめぇまだあきらめてなかったのかぁ!」
「…悪いけど、馬に抱かれる趣味はないから。」
「鮫には抱かれるくせにか?」
「はぁ!?な、なに言ってんの!そんな趣味もない!」
「ここ。」


ディーノは呆れたような顔で笑って自らの首筋を人差し指でとんとんと叩く。私はその意味にすぐに気づいて自分の首筋を急いで手で隠してマフラーを持って病室を出る。
最悪!あの鮫絶対分かっててやったな!おかしいと思ったのよねヤるわけじゃないのに、いっぱいちゅーしてきたから!今日ディーノが来るって予想してやがったんだ!


「お前も悪趣味だよな。」
「けっ、なまえは俺んだぁ。妙なことすんじゃねぇぞぉ。」
「これから妙なことしに行くくせに。」
「まぁなぁ、あいつ足遅いからすぐ追いつけるから大丈夫だぁ。」
「何が大丈夫なんだよ。はぁ、うらやましいぜ。」
「お前も早く嫁もらえ。」
「お前もってなんだよ。スクアーロだってまだ…」
「俺は今から婚約してくる。悪いが独り身卒業だぜぇ。じゃあな。」
「あ、スクアーロ!待てよ!」




長い廊下をひたすら走ってたらさすがに少し疲れた。あと迷った。まぁでも私が迷ってるんだからスクアーロが私に追いつけるわけな…


「ゔお゙ぉい!なまえ!!」
「ぎゃー!来たぁあ!?」
「俺がてめぇを逃がすはずねぇだろぉ。」
「っわ、」


スクアーロが壁に腕をつく。バサ、と長い銀髪が落ちる。絶対こっち真っすぐ見てる、そう思っておそるおそる上を見ると、思った以上に優しい目で驚いた。けど、思いきり噛み付くようにしてきたキスは、リング戦へ行くスクアーロを見送った時よりも苦しくて、でも愛おしくて、彼に少しでも近づこうと思わず背伸びをした。


「ん、んぅ、…は、あっ…」
「なまえ、」
「ちょ、待っ…っん、」


密着してくる身体。口内を自由に動く舌と同じくらい熱くて、どうかしそう。時々漏らす息も熱くて逆上せる。上を向く首が痛い、足りない背丈がもどかしい。


「んんっ、は、スク…?」
「なまえ、なまえ好きだ。」
「ばっ、なに言ってんのよ急に!」
「目逸らすな。」
「…はい。」


どうしてだろう。いつもなら、あれ?こんな、こんな、
ふわ、いい香りがする。スクアーロの匂い。もう病室の匂い、あんまりしない。ぎゅってした所からスクアーロの熱が伝わる。
…あったかい。


「なまえ、結婚、するぞぉ。」
「……は?」
「子供は二人、女の子と男の子、二人欲しいなぁ。」
「いや、…え?」
「二人ともなまえに似るといいなぁ。」
「ちょっと、スクアーロ?」
「なまえに似たら、きっとかわいい。」
「あのねぇ!」
「結婚、してくれ。」


身体は離れても熱がひかない。スクアーロは膝を立てて昔絵本で見たかっこいい騎士みたいに私の手の甲にキスをした。


「………」
「返事は。」
「は、はい。」


「はい」って言った瞬間のスクアーロの笑顔が、あまりにも、あまりにもで、もうどうにもならない。私は表現出来ない幸せにただ前髪をたくしあげて、うれしいよって笑った。



二人くしゃくしゃになるまで一緒にいよう、と



「誓うぜぇ。」
「私は誓わないけどね。」
「ゔお゙ぉい!なんでだぁ!」
「自分が誓うからって相手も誓うと思わないでよね。ボスだってそうでしょ。」
「…うぉい…」
「でも約束するから。あんたと死ぬまで一緒に笑ってる。絶対。」
「絶対なんてないんだぜぇ。」
「なに拗ねてんのよ!私とスクアーロの間だけにはあるのよ『絶対』。」
「…そうだなぁ。」


柔らかく笑ったスクアーロに私はまた微笑み返す。






誕生日ネタがどこにも入ってないことに驚愕



120314





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