第一歩は誰かのおかげ
学生の朝は流れ作業である。
まず、けたたましく鳴り響く目覚まし時計を意識が朧げなうちに棚からたたき落とし、まだ寝ていたい、動きたくない学校に行きたくないという様々な雑念を数十秒のうちに打ち払いのそのそと起床する。そして用意された朝飯を手早く済ませ、顔を洗い歯を磨き自室で着替えて鞄をひったくり登校。これがいつもの朝の風景。
……だったんだけど。
「おはようございまする名無し殿!い、いい天気でござるな!!」
明るい茶色の髪、赤い鉢巻き、明るい笑顔。
なんで同じクラスの真田幸村が俺の家までやってきているのか、出来れば誰かオレに教えてくださいませんか。
「……………」
「……………」
同じ制服を着た生徒が数人同じ方向へ談笑しながら歩いていく中、オレたちはひたすら無言だった。
だって無理だ。確かに普通に仲は良い方だけど、意味も分からないまま一緒に登校することになって状況を計りかねて絶賛混乱中のオレに、アクションを起こせというのか。
だがそう思って数分。いやもっとかもしれないが、この間幸村の方から何か話しかけてくるということはなく、それどころかちらちらオレの出方を非常に分かりやすく伺ってくるのみ。
……お前本当にどうした。
「……えと、幸村」
「は…っはい!」
「あー…お前、今日部活の朝練は?」
「今日はございませぬ!その…御館様が今日は都合が悪いとのことで…」
「…ふーん?」
それは珍しい。部活命として有名な武田先生だが、そういう日もあるのか。
だけどそれだけではこの状況の推測が出来ない。
「じゃあ佐助は?」
「佐助は今日は何やら用事があると…」
「……あぁ…そ…」
ということはとりあえず一切の救援は望めないと…!そういうことか!
「……名無し殿」
「ん?」
「その…ご迷惑であったでしょうか」
「?何が?」
「このような朝早くに、連絡も入れず突然押し掛けてしまって…」
そう言って俯く幸村に、オレは頭を掻いた。まさかやってきた幸村本人がそんなことを心配していたとは思わなかったからだ。というかそんなことを心配するぐらいなら普段の破天荒さを改めてくれと少し願ってみる。
「別に、お前の突拍子も無い行動にはある程度慣れてるし…たまには良いんじゃないか?こうやって一緒に登校するのも」
新鮮でさ。苦笑い気味になってしまったがそう続ければ、一気にぱあっと花でも咲いたかのような笑顔で嬉しそうに頷く幸村。
「でっでは!」
「おう」
「……これから朝練の無い日は…っ!名無し殿をお迎えに上がってもよろしいでしょうか!!」
「あー、別に良いぜ?朝弱いから起こしてくれると助かるし」
「………」
「……幸村?」
ぽかん、と口を開けてフリーズした幸村の前で手をひらひらと振ってみる。
だが、そんなことはおかまい無しに幸村は信じられない、とでも言いたそうな顔でじっとオレを見上げ続ける。
「………ま、誠でござるか?」
「ああ」
「誠に誠でござるか!?」
「だから、良いって言ってんだろ」
何故そんなに信じられないのか分からないが、何度も確認されてオレは逆に何かいけない答えを出してしまったのかと不安になったところで、幸村は何か感極まったらしく「やりましたぞおおおお!!」と叫びだした。
なんとなく慣れてはいるがやっぱり周りの視線が痛いぜ幸村。そしてここはまだ学校の外だから。そこの後輩っぽい子たちが苦笑いしてるから。
「では!!また某、名無し殿の為に迎えに参ります故!」
「うんうん。部活も頑張れよ」
何がそんなに嬉しいんだか分からなかったが、全身から嬉しさ全開オーラを放つ幸村の頭をぐしゃっと一つ撫で、朝から微笑ましい気持ちになりながら、学校まで幸村と二人歩いたのだった。
「…で?今朝は上手くいったの旦那」
放課後の帰り道にて。
今日一日ぼうっとしてたり時折ものすごく幸せそうにしていた旦那と一緒に帰る俺様は、今更な質問を投げかけてみた。
「な…!!なな何がだ佐助ぇえ!!」
「何その分かりやすい通り越して不自然な反応ー。はぁー…まあ、上手くいったんなら何よりですよっと」
顔を真っ赤にして、何をそんな今更誤摩化すことがあるんだか。
ここ数日大将と真田の旦那の為に打ち合わせたことが実を結んだようで、俺様はとりあえず胸を撫で下ろした。
まだまだ苦難が続きそうなこれからのことを思って、俺様はため息を吐いたのでした。
第一歩は誰かのおかげ
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GJ仮面同盟!!
さすがは幸村育成計画の立案者と実行者!
二人のもだもだするような焦れったさがこの微笑ましい第一歩を後押ししているんですねっ!
…と、興奮で言い遅れましたが、この素晴らしいお話はミノ虫。さまから10000hitフリリクとしてありがたくも頂戴致しましたものでございますー!
ありがとうございましたミノ虫。さま!!太っ腹!男前!あいしてる!(?)
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