夏の終わりに見るモノは
「月夜殿!月夜殿!」
「月夜!Get up!」
「……んぁ…?なんだよお前らそんなに慌てて……」
珍しく学校の授業が休講で家でまったり寛げる今日。
外は今年の夏の最高気温を更新し続ける中、オレは居候三人とクーラーの効いた涼しい部屋の中で過ごしつつ、うつらうつらと意識をソファの上から夢の彼方へ発信しかけていた時だった。
「某、あれを直接この目で見てみたく思います!」
「は………?」
あれってなんだよ?
心地よい眠りに入る一歩手前で妨害されたせいで非常に自分の機嫌が悪いのがよくわかったが、とりあえず面倒に思いながらも幸村の伝えたい事を考えてみる。
するとつけっぱなしだったテレビの音が徐々に意識の中に入って来て、ああ、テレビか、と漠然と思った。
「今何やってんだよ…こんな昼間にやってるのはお昼のワイドショーか昼ドラくらい…」
重い首を動かしてテレビの方を見れば、確かにそこに映っていたのは自分の予想した通りお昼のワイドショーだったが、その内容が。
「………花火?」
画面一面に広がる、夏特有の大輪の火の花だった。
……と、いうわけで近所のスーパーで少し安く売っていた花火を結構な量買い込んだオレは、以前にも荷物持ちとして貢献してくれた幸村を含めた居候三人に荷物持ちとして来てもらったわけなのだが。(ちなみに花火と一緒に食料などもついでに買い込んだので、買い物袋はそれなりの量だ)
「悪いなお前ら。幸村に至ってはまた買い出しの荷物持ちさせちまって…」
本当に悪いとは思う。
だって幸村はいつかと同じように重そうな大根やら人参やらも入った買い物袋を両手にぶら下げていて、見るからに重そうで疲れそうな役どころを買って出てくれたのだ。
いや、オレだったらもうとっくに根をあげているだろう。こいつらと比べたら爪楊枝と樹齢何百年の木の幹ぐらい色々違うひ弱な現代人だし。
「何を申されますか月夜殿!かような些細な事、お気になさらずとも……、それに…その…」
「ん?」
「なっ何でもござらぬ!!」
本当に何が言いたかったのか不思議に思って聞き返せば幸村は心なしか紅くなって顔を背け押し黙ってしまった。
普段オレに幻覚の尻尾を見せながら、笑顔いっぱいで言いたい事は惜しげも無く堂々と言う幸村だが…本っ当にたまに、こうやって幸村の言いたい事がわからない時がある。
…さらに大抵そう言う時は何か知らないが伊達とか風魔が怖いんだけど。なんでだ。お前ら何を電波飛ばしてわかりあってんだ。
「真田テメエ…抜け駆けは許さねえぜ?」
「………………(こく)」
「抜け駆けなどと…っ!その、某はただ月夜殿に…!」
「あーはいはい三人でじゃれてんじゃねえよ。その体力は夜の花火まで取っとけって」
もう深く突き詰めて考えるのはよそう。理解できねえ。
案の定背に般若を背負いそうな二人の剣幕に押され気味な幸村をかばうようにしてとりあえず近くにいた伊達の頭にぽん、と手をのせて苦笑する。
全くお前らの元気のよさにはついていけねえよ…なんか我ながらジジくさいが。
「月夜!俺たちは真面目に…っ!!」
「わかったって。ほら、帰るぞ」
「…………There is no other way.(仕方ねえな)」
「…風魔も。そんなむくれんな」
「………、…………」
ぎゅっとオレの服の裾をつかむ風魔のなんとなく和らいだ空気に少し安心し、また我が家への帰路につく。
全く、お前らと外に出るとつまらないなんていう言葉忘れちまうなぁ…なんていつの間にか思っちまっている自分に気付いて、またオレはこっそり苦笑いした。
空は、いつの間にか秋に姿を見せる鮮やかな紅葉のような茜色から夜の綺麗な漆黒へと色を変え、目を凝らせばわりと都会に近いここからはぽつぽつと控えめな光を放つ星がちらちらとその姿を見せる。きっと、もっと山に近いほうに行けばこれだけ天気がいいのだし綺麗な星空に囲まれることができるだろう。
「さぁーてお前ら花火するぞ花火ぃ!!」
場所は居候どもを拾ったあの公園。
足下には昼間に買った様々な花火。
残念ながらこの公園はそんなに大きくもないしアパートやら一軒家やらが近いから打ち上げ花火のような派手で大きな音を立てる花火は買ってこなかったが、四人でこれでも十分のはずだ。ちゃんと水の入ったバケツも用意したし近くに水飲み場、っていうか水道もある。…こいつらと一緒っていうのが唯一心配だが何かあってもこれなら大丈夫だろう!
「おぉぉ!月夜殿、珍しく“てんしょん”が高いでござるな!!」
「ったり前だろ夏と言えば花火!これを見ずに夏を終わらせてたまるか!!」
「HA!そりゃあ上等じゃねえか!月夜、早く火をつけるぜ!Give me a light!」
早く早く、と急かす伊達と幸村に応えて用意していたロウソクに火をつけた。
そこから次々に手に持っていた花火へと火をもらって点火して行く花火の閃光がオレたちの視線と心を奪う。
やっぱり夏はこうでなくちゃいけねえな!
「…………!!」
「あっはは!大丈夫だよ風魔!爆弾とかみたいな危ないもんじゃないからそんなに慌てるなって!」
一気にテンションが上がるオレたち三人と違って、花火に火がついた途端慌てて手に持った花火をどうしたら良いのか、と視線で訴えてくる風魔に悪いが笑いがこみ上げる。昔ってそんなに花火ってやるもんじゃなかったのかな。寧ろ無い?いや、戦国時代ではただ忍者だっていう風魔がそういうのに疎いだけか?
「ほら、誰かに向けないようにこうやって持って、」
「……………」
風魔の隣に立って自分の手に持った色とりどりの色を放つ花火を誰もいない暗闇に向ける。
それに倣ってオレと同じように花火を持つ風魔を見て、ちょっと微笑ましいなんて思ってしまう。
「そうそう。ほら、普通に見ているだけで綺麗だろ?」
「……………、………」
「Hey月夜!何してるんだ!」
「伊達?ぅわ!花火こっち向けんな!!」
「HA!これぐらいじゃなきゃつまらねえぜ!……っそれより月夜!」
「うん?」
「……風魔ばっかり、構ってんじゃねえ。You see!?」
「…はは…悪かったよ……って…!」
自分で言っておいて気恥ずかしかったのかなんなのか、暗闇の中でも伊達の顔がほんのり赤くなっているのがわかってしまった。そんな伊達がおかしくなって思わず笑っちまったが、そこからなんとなしに伊達からふと視線を買い込んだ花火の置いてある場所に移せば、残っているのは残り数本の花火とやっぱりトリはこれだろう、と思って買った線香花火が少々。
…………あれ。
お前らもうこんだけ花火使っちまったのか…
「なくなるのヤケに早………、…………。……伊達」
「Ah?」
「お前花火何本持ってんだ…?」
「見てわからねえか?」
「なんか自分で理解したくなかったから敢えて聞いたんだが」
楽しんでくれてるなら別に全然構わないんだ。だけどな、お前一度に六本て。六本て!!器用に片手に三本ずつ花火を持つ伊達を見て危ないとか思う前にすごいと思ってしまったんだが。
…まあ……一度に六本も使ってりゃ、そりゃあ…無くなるわな…
「月夜殿!花火がもう無くなってしまったでござる…!」
案の条幸村は今新しい花火に変えたのだろう、赤く光を放つ花火を両手に計三本。それが放つ鮮やかな光に照らされつつおろおろしている。
「思ったより随分早かったけど…まあいいか。よし、シメと行くぞ!」
「……………(こく)」
「All right!」
「は!」
元気の良い二人と返事と風魔の頷きを見て一つオレも頷き、数の少ない線香花火に手をのばした。
もう、時刻は九時を回った。
普段唯一現代っ子であるオレ以外は早くに寝付くはずの幸村と伊達には、もうそろそろ寝る準備をしなければ辛い時間だろう。
風魔は、忍であったらしいのでたまにこれぐらいどころか一日中起きている姿を見ることがあるんだが、その姿を見かけるたびにオレはなんだか風魔が辛そうに見えるので早く寝るように言っている。それでも、なかなか外で車が走る音やらなんやらが気になる事があるらしい。
最近では随分と減ったが、それでもまだ真夜中に家の庭の木の上で一人立っているのを、オレは見た事がある。
「……これは…まこと綺麗なものにござる…」
「……I think so, too.(同感だ)」
「………………」
線香花火の、ふわふわと儚い閃光に照らされて見える三人の顔は今は穏やかで、ここが如何に平和で溢れているところなのかを感じる。
こいつらが来たという戦国時代では、三人とも名のある武将だったり忍だったり。
こんな穏やかに時間を浪費するような事なんて、無いのだろうけど。
「……なあ、みんな」
「何でござるか?」
「Ah?」
「………?」
「また、花火。…やろうな」
花火なんてただのきっかけだ。
花火じゃなくとも、
またみんなで。
この穏やかな時を。
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ミノ虫。様のサイトで5000hitフリーだったので早速頂戴して参りました!
こうしてサイトの聖域がまた一歩管理人の理想に近づきましたよ。
ちなみにお名前は管理人の独断と無駄にあつい希望により月夜さんで固定です。
今更ですが!
だって月夜さん格好良いですから。(断定)
やさしくて面倒見が良くてなおかつちょっと鈍いとか素敵すぎる…!
そして気付かれてないのを良いことに電波で牽制しあう三人に萌え…v
武将三人の素晴らしさが際立つポイントを逐一上げ連ねたいところですが、ここまで読んでいらっしゃる方に対してそれはまさに蛇足というもの。
しかし敢えて言おう、お手伝いをする良いこな幸村は正義であると!
はい。そろそろ管理人の脳みそが興奮で沸騰間際だとバレているに違いないですね。
というわけでいい加減に退場します。
長々うるさくしてすいません。余韻ぶち壊し?ですよね←
ともかくもミノ虫。様!太っ腹ありがとうございました!
素敵すぎるお話ごちそうさまです!
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