エピローグ





あれから隙をついて白雪姫を起こした王子様。
実のところ強いと名高い王子様に何でも良いから難癖をつけて手合わせを挑もうとしているだけのお妃様を止めるのは大変でしたが、それでもなんとか言い含め、実戦だけは免れることに成功しました。
そんなお妃様の態度に怒った白雪姫もお妃様と二人でなだめすかし、こちらもどうにか完結までこぎつけます。

その後も人魚姫元親や一寸法師小太郎、赤ずきん三成などいくつもの物語を完結させた王子様。周辺諸国の問題もあらかた片付き、ついに帰国しないわけにはいかない状態になってしまいました。
王子様は一つ息を吐くと、仕方なく大鳥の首を自国に向けて進みはじめます。


さてその頃王子様の国はどうなっていたかと言いますと、どうにもなってはいませんでした。
王子様不在の中、既に舞踏会の告知をしてしまった王様は開き直ってその準備を押し進め、最悪自分たちが選んだ娘をお嫁さんにさせればいいやと誰の得にもならないような愚かなことを考えておられたのです。
この点、王子様が帰国なされたのは英断だったと言えるでしょう。


そんな王様のいい加減な考えなどつゆ知らず、国民は皆舞踏会の準備に奔走しています。この物語の本来の主人公、シンデレラ佐助の継姉、幸村もその内のひとりでありました。

「佐助!佐助!団子を買ってきてくれ!」

幸村は継母に可愛がられているのを良いことに、いつもこんな無理を言ってシンデレラをいじめるのです。

「ダーメ。今日の分はもう食べたでしょーが」

「しかし今から行けばこの“熱血!炎の爆発団子!”が買えるらしいのだ!」

どこから持ち出したのか、幸村は団子屋のチラシを見せて食い下がります。

「なにこれ?…えーと………松永商店?だめだめ。こんな店の商品なんか買わないよ。爆弾でも入ってたらどうすんの」

「しかし…!」

「とにかく駄目。大人しく鍛錬してきなさい」

シンデレラにきっぱり無理だと言われ幸村はしぶしぶ引き下がります。

「それよりドレスの準備したの?舞踏会明日だからね。忘れてないよな?」

「…うむ!既に準備万端、あとは着るだけだ!」

「おー珍しい!いつもはいっくら言っても忘れるくせに」

それだけ楽しみなのだと力強く頷く幸村。それをうけてシンデレラもまったくその通りだと頷きます。

「明日は各国の強者が集まる願ってもない好機!そこで必ずやこの幸村の名を轟かせて見せようぞ!」

「うんうん、大輔ちゃんは格好良いからね…って、え!?」

「見ていてくだされおやかたさまぁああー!!」

「ちょっ、旦那!今なんかすごい事言ってなかった!?ねぇてばちょっと、おい旦那ってば!!」

空に向かって叫ぶばかりでまるで話を聞いてくれない幸村に痺れをきらしたシンデレラはすぐさま屋敷の外に駆け出します。
そして優秀な忍っぷりを遺憾なく発揮してあっという間に王子様のお城に忍び込みました。

「大輔ちゃん!!」

「佐助、」

するりと王子様のお部屋に滑り込み降り立ったシンデレラ。自ら書類をまとめ、判子を捺印していた王子様も突然のことにびっくりして顔を上げました。

「明日って舞踏会なんじゃないの!?」

さっき旦那がと早口でまくし立てるシンデレラに椅子を勧めながら、王子様は手ずからお茶を淹れはじめます。

「あぁ…それな…」

実は、と申し訳なさそうに苦笑して

「武闘会にしたんだ」

「はぁぁああっ!??」

「目安箱に百通以上の投書があってな」

シンデレラの脳裏にすぐさまあの赤い師弟が浮かびましたが、それよりも目の前の王子様を問い詰める方が重要です。

「だからって…!」

「元々父が勝手に決めたことだし、俺にはもう佐助がいるからな」

「!…もう、ばか…」

楽しみにしていたのにと拗ねるシンデレラに紅茶を渡しながらにっこりと微笑まれる王子様。どうやら先ほどの書類もその変更に伴う事務作業だったようです。
大急ぎで飛んできたシンデレラの髪を梳くように撫でながら、がっかりしている可愛い人を優しい声で宥めます。

「…ったく、せっかく気合い入れてドレス作ったのに、どうしてくれんのさ?」

「まぁ、それは婚約披露の時にでも着て見せてくれよ」

なんて砂糖いらずの無駄に甘い雰囲気を醸し出しはじめた主人公二人。
こうなっては物語の段取りなんて野暮なことは言えません。元々段取りなんてあってないようなものですしね。

武闘会の噂を聞きつけた各国の王子様やらお姫様がもう一騒動巻き起こすのは目に見えておりますし、ガラスの靴もカボチャの馬車も出ていませんが、とりあえず。
一先ずはこれでハッピーエンドといたしましょう。そろそろねずみも出始めました。お話はこれでおしまい。










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