白雪姫





首尾良く眠り姫を完結させた王子様ですが、そのまま自分の国に帰るのは躊躇われたので(何故ためらわれたのかと言うと、理由はわかりませんが嫌な予感がしたからです。そして、王子様のそうした予感というのは大変によく当たるのです。)周辺諸国をぐるりと一周してから戻ることになさいました。
そのため、今は例の大鳥を使って空の上から辺りを見回しておられます。


そこで私たちは動きのない王子様から目を離し、とあるお城の一室を覗くことにいたしましょう。

時は、眠り姫が起きる前までさかのぼります。

そのお城というのは、かの有名な米沢城…ではなく西洋的な光り輝くキャッスルです。そのキャッスルの薄暗く、人気のない城の端にある一室にたった今入っていった人物が一人。
部屋の中からはなにやらぶつぶつと呪文を唱える声が聞こえます。

「鏡よ鏡、真実の鏡。嘘偽りが無いというお前の声で、私に全てを教えてくれ」

部屋の中にはそれはそれは大きな姿見と、その前に立つ偉丈夫…あらためこの国のお妃様がいらっしゃいます。お妃様はその魅力(武力)によって王様である小十郎様の後妻として来られた方ですが、しかしそれは仮の姿、何を隠そう、お妃様は本当は魔女だったのです!

まぁ白雪姫ですからね。当然です。今も台本通りに鏡に話しかけているわけです。

《…お望みならばお妃様…何をお知りになりたいのか…?》

真実の鏡は妖しげに、しかし恭しくお妃様の声に答えます。

「では聞こう。この国で最も美しいのは誰だ?」

従順な鏡に満足した魔女孟隻はおもむろにそう尋ねました。

《…この国で最も美しいのはお妃様。あなたが一番美しい…》

しかし、鏡がそう答えた瞬間

「この盆暗が」

《……!?…》

「戯けたことを抜かすな。政宗が幼い(という設定の)今、あれを推す事に無理があると言うのは許す。しかしそれならば最も美しいのは小十郎に決まっているだろうが!」

お妃様は突然そう言って叱り飛ばしました。
理不尽極まるそのお叱りに鏡はどうしてよいのかまったく見当もつかず、ただおろおろと慌てるばかり。

「真実の鏡が聞いて呆れる。今度そんなふざけた寝言をほざいたら叩き割って鋳なおしてやるからそう思え!」

鏡相手に大人気なく脅しをかけたお妃様は、言うだけ言うと大股に歩いて部屋を出ていかれました。残された鏡はそんなにはっきり決まっているなら聞いてくれるなと思いましたが、それ以上にお妃様のリアルな恫喝が恐ろしく、鏡のくせに冷や汗をかいて身震いしました。
この時から真実のは現在の真っ青な形になったと言われています。



さて時は戻り眠り姫が目覚めた後。白雪姫の劇も順調に展開が進みます。

すっかり大人になった白雪な政宗姫はたいそう美しくご成長なさり、お妃様からの嫉妬を一身に受けることとなっていました。

その嫌がらせの一端として猟師に殺されかけたりもしましたが、もちろんそんな雑魚は白雪姫の敵ではありません。自慢の六爪で返り討ちにしてやりました。
そして白雪姫はその足でなにかと縛り事の多いお城を出奔すると森に住む小人をまとめあげ、今では自由気ままに鷹狩り三昧な日々を送っています。

しかしそんな楽しい日々も束の間、真実の鏡によって白雪姫が死んでいなかったことを知ったお妃様。死んだと思った白雪が生きていた…安心しきっていたところにそんな知らせを受けたのですから、その怒りたるや尋常ではありません。

「小十郎、ちょっと出てくる」

まわりの不甲斐なさに業を煮やしたお妃様はありったけの呪いを込めて作った毒リンゴを手に件の森に向かおうと歩き出します。

「政宗様のところか?」

「そうだ。お前も政宗の花嫁修行が進んでいるか気になるだろ?」

「…まぁな。まさかお前がらみで政宗様がサボるとは思えねぇが…」

そのあまりの剣幕に見かねた王様がお止めになりましたが、勢いはとてもおさまりそうにありません。
止めさせようとする王様の腕を振り払ってお妃様はずんずんと進んでしまいます。

「成果如何によってはそのまま連れて帰るから、婚礼の準備を頼む」

「分かった。政宗様によろしく伝えてくれ」

そのままひらりと馬に跨がると、目にも止まらぬ速さでかけ去って行きました。


…と、ここまではまだ良かったのですが。


お妃様が森の小屋に着いた時、肝心の白雪姫がすでに倒れていたからさぁ大変。運悪くその場に居合わせた大輔王子を騒動の原因と見なしたお妃様は、噂の武力で問い詰めようと得物を掴んで構え直しました。
流れ上対峙を余儀なくされた大輔王子も止むを得なしと武器を取り、今にも攻撃に移りそうなお妃様を牽制します。

どちらも天下に名高い力の持ち主。周りを囲む小人たちはハラハラドキドキうきうきわくわく。一触即発の空気が張り詰める中、稀にみる名勝負を期待して賭けの胴元も声を荒らげます。

運命のゴングが鳴り響く…そこ瞬間はもうすぐそこまで迫っていました。




続く





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