眠り姫





さて、そんなこんなで首尾良くお城を抜け出した王子様。呼ばれた場所に向けて颯爽と大鳥を飛ばします。

そうして随分と飛んで来ましたが、目的地付近の森までくると何故だか急に目が霞みはじめ、意識もクラクラしだしました。幸い式神の鳥は影響を受けていませんでしたが、これはいけないと判断した王子様はパンッと一つ柏手をうち、自分にまとわりついた邪気を払います。そうして素早く周囲に結界を張る姿は魔法使いと紙一重です。

そんな怪しい森の中をさらに進んで行くと、ようやく見えてきたのは妖気漂う怪しいお城。周り中をイバラに覆われたそこはどう見ても問題ありまくり。きっと王子様を呼んだのもこの城関係の事なのでしょう。

空の上から目をこらすと、予想に違わずイバラの前で立ち往生している人が見つかりました。

「美しいお姫様、こんな危険な茨の森で一体何をしているのです?」

素早くその人の側に降り立った王子様は台本通りのセリフで話しかけます。

「…っ大輔!」

王子様の姿を見つけたその素晴らしく美しいお姫様は、王子様に駆け寄って泣きつきました。

「どうしたんだ元就、予定ではもうハッピーエンドの時間だろう」

自分に必死にしがみついてくる元就様…もといお姫様はすでに半泣きで、自信と美貌に裏打ちされてお日さまと同じくらい輝いているいつもの様子は見る影もありません。
せっかくのふんわりゆったり広がった素晴らしくお似合いの可愛らしいドレスも、艶やかな髪を飾る花とリボンのキラキラとした冠も、お姫様がイバラに近寄ったせいで所々が乱れて崩れてしまっています。
ましてお姫様が両手に身につけていらっしゃるすべらかな絹の手袋に至っては、お姫様の穢れない涙でしとどに濡れそぼっているばかりか、イバラの棘に引き裂かれてたいそう悲惨な有り様になっているばかり。
そんな痛々しく可哀想な様子が妙に背徳的で淫靡っぽく、もっと泣かせたいと思ったのはあくまでも作者であり、王子様では決してありません。

「元就…落ち着いて話してみな。出来るだろう?」

必ずなんとかしてみせるからと優しく言い聞かせる姿は頼もしく、取り乱していたお姫様も少しだけ落ち着きを取り戻しました。

「いっ…ばら、が…」

「うん、茨がどうした?」

服を握りしめて縋りながら、涙を我慢しつつの泣き顔かつ上目遣いでしゃくりあげるというウルトラマックスなコンボを繰り出す麗しいお姫様。
普通ならくらっとくるどころかガバッといってしまうところですが、こういう事に慣れっこな王子様は動じません。王子様の理性の糸は屋久島の杉より太いのです。

「いばらが…っ、開かないのだ…」

「え…?」

「約束の刻限になってもびくともしない上、未だに防御ぷろぐらむまで作動していて…」

一歩も城に近づけないのだと言ってお姫様はまたさめざめと泣き始めます。
自分はもう絶対に嫌われたのだとお姫様はおっしゃいますが、何しろお城の中にいらっしゃる相手はあの舜王子。王子様はあの方がお姫様をお厭いになるはずがないと信じておられます。
というかぶっちゃけまだ寝こけているだけに違いないと確信をもって断定していました。

「…舜様の相手役など…やはり我には過ぎた幸運だったのだろうか…」

「元就…」

しかし、お姫様があまりにも悲しげに泣かれるのを見て、哀れに思った王子様はこうおっしゃいました。

「舜ではなく、俺にしないか」

まさかの乗り換えませんか発言に、驚きのあまりそれまで途切れることなく流れ続けていたお姫様の涙までピタリと止まります。

「…大輔…?」

「お前がそんなに泣くなら、俺が忘れさせてやるぜ?」

しなだれかかるお姫様の細い肩を抱き、真摯な声で囁く様子は正に当代随一の色事師、もといタラシ…でもなくお優しいお人柄。
そっと涙を拭う仕草も堂に入っておられます。

「駄目か?」

まっすぐに見つめてくる王子様のお誘いに、これまで何度もすっぽかされて傷心のお姫様は戸惑います。
しかし、

「…だ、だが!…やはり我は舜さまが…!」

お姫様がそう叫んで王子様の手を避けようとした瞬間、周りに生い茂っていたイバラというイバラが一瞬にして遥か後方に退いて行くではありませんか。
そしてその生じた空間を全力疾走でこちらに向かってくるのはまぎれもなくお姫様の愛しい想い人である舜王子に違いありません。
舜王子のこんなにも活動的な姿など、今までに見た人が…いえ、これまでの歴史に存在したことがあったのでしょうか。

「元就…!」

「…舜さまっ!」

慌てて立ち上がったお姫様と抱き合う舜王子。やっと起きたのかと内心呆れかえっていた王子様ですが、お姫様に何度も謝り倒す舜王子を見てこれならば安心だろうと胸をほっと撫で下ろします。

暫くして一段落したのか、お姫様を後ろに庇いつつジト目で睨んでくる舜王子。警戒するその相手に厳重注意を言い渡せばこの問題は解決です。

そうして舜王子にしっかりと危機感を植え付けた王子様は、再び式神の大鳥で空に飛び立って行きました。




続く





- 7 -


[*前] | [次#]
ページ:




目次へ
topへ



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -