プロローグ





【シンデレラ】





* * * * *






むかし昔、あるところにそれはそれは穏やかで国民の誰もが笑顔で暮らす平和な王国がありました。

しかし、そんな素晴らしい国の中で王様とお后様だけは悲しいお顔をしていらっしゃいます。王様は立派なお髭を撫でつけながら難しい顔で虚空を眺め、お后様は美しい眉をもの悲しげにしかめていて、お二人の吐かれるため息の数といったらお城中のご家来たちをみんなあわせても足りないというくらいです。

お二人がそれほどまでに悩んでおられる原因というのは他でもない、この国の王子様のことなのです。
この王子様という人は大変聡明でおやさしく、とても勇敢な上今まで誰にも負けたことがないほどお強い方でした。しかし王子様の説明をする際に一番外してはいけないことといえば、何よりも大変面倒見の良い方であるということです。

その面倒見の良いことといったら王子様に頼めば困ることは一切ないというくらいなもので、国の内外を問わずガッチガチに、鉄板の中の鉄板というくらいな定評があるほどでした。
その面倒見の良さに関しては国民の評判も良く信もあつく、それについては王様にもなんの不満もありません。
しかし評判が良すぎて王子様の元には年がら年中四六時中方々からの相談事が集まってくるからさぁ大変。お優しい王子様は忙しくて眠る時間さえ削る始末。落ち着いて座る暇さえないくらいなのです。

つまりそれは平たく言えば、彼女を作る隙さえない訳です。デートだってできません。それは一秒でも早く孫の顔が見たい平和ボケした王様たちにとっては由々しき事態です。とんでもない一大事です。この上なく耐え難い苦難と言っても過言ではないのです。

しかし面倒見の良い王子様は相談事を解決する日々に満足しているため王様たちの話は右から左。全く取り合ってくれません。


そんな王子様の態度にしびれを切らした王様は、ついに最終手段にうってでます。
次の満月の夜に国中の年頃の若者やら女の子を城に集めて舞踏会をひらくとおふれを出しました。そしてその中から誰でも良いから王子様の気に入った方を王子様のお嫁さんにすると勝手に決めてしまったのです。なんという数打ち作戦でしょう。選ばれる側の人権をまるで無視した横暴です。

しかしそれを聞いた国中の者が自分こそが王子様のお嫁さんになるのだと騒ぎだしました。いくら無辜の民とはいえ現金というか愚かというか単純というか…これだから下々の者なんてざっくり一括りにされた上馬鹿にされるんです。
もちろん年頃でないじじばばだって最近の若者はなんて言えません。大層おめでたいことだと争うような大はしゃぎ。
国中がすっかりお祭りムード一色です。

こうなればもう王子様も相手を選ばない訳にはいかないでしょう。選ばなければ大ブーイング必至。やっぱり世論は強いのです。
ここまでの目論見がすべて上手く運んだ王様はお后様とハイタッチして喜びあいました。

念押しの最後通告をしなければとスキップ一歩手前の軽い足取りで王子様のお部屋に向かう王様とお后様。
が、観念しろとにこにこ顔で開けた扉の向こうはもぬけの殻。数秒間のフリーズからようやく立ち直って慌てて部屋に入ってみれば、机の上にきっちり留め置かれた一枚の紙。そこには綺麗な字でほんの一行。


<火急の依頼により暫く空けます>


一番下に書かれた日付はすでに三日も前のもの。浮かれすぎて城中の誰も肝心の王子様がいなかったことに気付かなかったとはなんとも間抜けすぎる話。

慌てふためく王様たちを気にもせず、開いた窓の外では気持ちのよい風が吹き渡っておりました。




続く





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