第一主人公×小十郎
洗剤、野菜、歯磨き粉に日々のおやつ。まだ米はいらなくて飲み物も十分。肉と魚は一番最後の店でいい。
走り慣れた道を進む車の中、そうブツブツと口の中で呟きながら助手席の小十郎が買い忘れがないかをチェックする。
店をはしごして集めた買い物袋は車だからこそ持って帰る気が出るような量で、こうして指差し確認しなければきっと足りない物があっても気付かないだろう。
「足りてるか?」
「………よし。ま、大丈夫だろ」
後は予定通り最後の店で生鮮食品を買うだけだと、二人してやれやれと息をつく。
それがなんだかやけに所帯じみた仕草だとは敢えて気付かないふりをした。
「あ」
「?、…あー…」
最後の店に向かう間、ポツポツとフロントガラスに水が当たり出す。
それが雨粒だと思う頃には、あっという間に大粒のそれらがばたばたと音を立てて車の屋根に降り注ぎ始めていて。
「夕立か?」
「…だと良いがな」
聞こえる雨音は強まる一方。既にスーパーマーケットの駐車場に着いてはいたが、生憎一本しかないビニール傘では正直外に出る気は起きない。
運が良かったのはまだ生鮮食品もアイスの類も買っていなかった事と、今がまだ四時前だということ。
「雨が弱まるまで乗ってるか」
とりあえず言った提案に、小十郎もあっさり頷く。慌てて買い物を済ませる必要がなかったのは不幸中の幸いだ。
まぁ好き好んで濡れたがる奴なんていないだろうしな。
急に暗くなる空と俄かに肌寒くなったような気温。
エンジンを止めた車の中、雨音だけが聞こえる不思議な空間は音があるようなないような。
「そろそろ行けるんじゃないか?」
何をするでもなくぼんやりと待って暫く。
小降りになった外を見ながら振り返ってそう呟けば。
「…………」
いつの間にやら傾いていたらしい頭。
座席にもたれる角度も深くなり、気付けば目が閉じていて。
小十郎がうたたねとはとは珍しい。
が、確かにこの不思議な静寂は何とも言えず心地よく、眠ってしまう気持ちもよくわかる。
寝息が聞こえるわけでなし、そう深い眠りでもないんだろう。放っておいても直に起きそうだと頭の中で結論付けて。
もうしばらくはぼんやりと珍しい寝顔を見るのも良いかもしれないと勝手に決めた。
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