第三主人公×政宗





「アンタは入るんじゃねぇぞ!」


調理台の前で仁王立つように立ちふさがった政宗の指差す先、台所の入り口には孟隻立ち入り禁止の張り紙がでかでかと貼られていた。


「なんで私は立ち入り禁止なんだ?」

「アンタが必ずつまみ食いしてくからだろ!」


おかげで料理が完成しやしないと毛を逆立てんばかりに威嚇する。
いつもいつも趣味の時間を荒らされる政宗が、今日こそはと立ち上がったというわけで。

わめくような唸るようなその抗議を面白がるように聞いていた孟隻だが、珍しく真剣な政宗の様子にひとつやけに重々しく頷いて言った。


「わかった。今日はつまみ食いしない」


調理台にはずらりと並んだ完成間近の食材たち。既に下拵えは済んでいて、普段の孟隻ならば間違いなく手を着けるだろうものばかりだ。

そんな皿を目の前にしての発言は嘘臭いことこの上ないが、孟隻が自分で言ったことを曲げることもまずないわけで。


「…本当かよ…?」

「本当だ」


半信半疑で疑わしそうに見上げる政宗に、力強く言い切る孟隻。

しかし孟隻はそのかわりと言って政宗の右手を掴むと、さっと人差し指を立てさせて。


「…!」


掬わせた政宗の指ごとそのまま自分の口に芋のきんとんを運び込む。
その拍子に触れた孟隻のざらりとした舌の感触に思わず肌が粟立った。


「なっ…!…っ孟隻!!」

「流石は政宗。良い味だ」

「アンタ今つまみ食いしないって言ったじゃねぇか!」

「つまみ食いじゃない。今のはお前が味見させてくれたんだろう」


ぬけぬけと言い切るその厚顔は確かに今更だとは言え。
ちろりともう一度指を舐め、音を立ててキスをする仕草が堂に入っていて癪にさわるし、おまけにさっきはただ気色悪く感じたそれが、急に背筋をぞくりとさせるものに変わるのが遊ばれているようでまた腹立たしいしで政宗の苛立ちは募るばかりだ。


「っ、なんでアンタはそう邪魔ばっかすんだよ!?」

「旨そうな匂いがするのが悪い」

「完成してから食った方が美味いだろ!」


まあなとあっさり答える孟隻に政宗の怒りはいよいよ頂点に達しようかというところではあるが。


「確かに政宗の料理は旨い。だが、飯を食うよりこうしてお前とじゃれ合う方が私にはよほど価値があるのだ」


と。
そんな台詞をしゃあしゃあとのたまうような相手を選んだことが全ての間違いだったわけで。


「お前だって、構って欲しくて料理をするくせに」

「…!……っ、」


結局、図星をさされてぐぅの音も出せなくなった政宗が今日も今日とて白旗をあげる結末になるのだ。





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