催涙雨





普段とはまるで色が違うアスファルト。
ほんの少し目線を上げればどしゃ降りの雨。

思わずため息がこぼれるのも致し方ないというものだ。


朝からずっとこの調子で降り続くそれは、いくら梅雨時といっても限度を知らないにもほどがある。何しろ、どこかの県では注意報が出されていたくらい、気合いの入った雨雲だ。
そうそう止むとは思えない雨だろう。


そんな調子の天気にも関わらず、わざわざ出かけてきた自分は変人なのかもしれないと大輔は内心苦笑する。

そして、出掛けて来た理由を他人が聞けば、正直なところ、確かに変人かも思うだろう。


何しろ、足を向けたのは小さな図書館。古い建物は飛び抜けて快適な空調があるわけでもなく、お世辞にも豊かな蔵書があるとは言えない。


それでも今日ここに来たのは、今日が水曜日だったから。
毎週のようにここで会う、名前しか知らない相手がいるかもしれないと思ってだ。

今はいないその相手とはなんとなく話すようになり、学年が下だった相手になんとなく大輔が勉強を教えるようになって。
約束らしい約束もせず、なんとなく水曜日に会うようになった。


(…さすがに今日は来ないか)


とはいえ何もかもなんとなく。曖昧であやふやすぎる関係。
実際、毎週必ず会う訳ではない。会わなかったこともいくらもある。普通に考えれば来ないだろう。


(………でもなぁ…)


しかしなんとなく、今日は来るような気がしたのだ。
だから大輔は来たわけで。

客観的な思考では、自分が単に天の邪鬼なのかもしれないとか、危ないし、来ないでほしいと思う部分もある。


それでもやはりなんとなく。


しかもその予想を裏切ることなく、窓の端をちらりとかすめていったビニール傘と赤い髪。
彼が消えていった先は、恐らくこの図書館の玄関にちがいなく。


(……来てくれるもんだな)


たかがなんとなく、されどなんとなく。

こんな雨でも、わざわざ会いに来る小太郎の方が、どこかのお姫さまよりも、よほど情が深いだろうと、決めつけに近い断定をして。


自分を見つけた小太郎が、少しは喜んでくれるだろうかと、大輔は何十秒後かの未来を想像して笑った。





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