双七
青いような暗いような中途半端な色の夜空。
もくもくとした雲が一面に広がり、天の川どころか、星の一つも見えやしない。まるで天上の二人の逢瀬を邪魔立てでもしているようだ。
雨が降らないだけ、まだましなのかもしれないが。
とはいえ、そんなことは地上の城に籠る政宗にはなんら関係があるわけもなく。
こちらは相も変わらず天気よりも不確実な孟隻の帰還をあてもなく待ちぼうけるしかない。
いっそ牽牛たちのように会えるのは年一日と決まっていた方が、ずっと気が楽だったのかもしれないと思いつつ、諦めきれずに外を眺めるのだ。
結局、今日も昨日と同じく門番からの吉報を聞けずに一日が終わっていくのかと、ひっそりとため息を噛み殺して床に潜った時だった。
「もう寝るのか?」
勝手に開かれる自室の戸。
そしてその向こうからは、憎らしく笑った孟隻の顔が覗いていた。
「孟隻…!アンタ、なんで居んだよ!?」
「愛姫が、今日くらい傍に居てやらないと駄目だと言うからな」
愛姫は大人しい上品な態度を崩さないが、あれでいてじりじりと、真綿で締めるように強制してくる。
別にこの二人がそんなことを怖がるはずもないが、機嫌を損ねると面倒だとは思っているわけで。
「…んな程度の理由で戻って来んのかよ」
政宗がいくら行くなと言っても聞き流すくせに、愛姫が言えば一発で帰って来るところが酷い。
恨めしげにねめつける政宗には素知らぬふりで、孟隻はずかずかと部屋の真ん中まで上がり込む。
「まぁ、それも理由の一つだがな。確かに今夜くらいは私とてお前に会いたいと思ったのさ」
「Ha!どうだかな」
信用がないなと呆れる孟隻に、当たり前だと即答する。
ふくれて他所を向いた政宗を眺めながら、ではと一つ話を区切った。
「ならば賭けるか」
「賭け?」
夜明けまでに、星が見えるかどうか。
その賭けに自分が勝ったら信じろという。
「オレが勝ったら何が貰えんだ?」
「無論、勝者には口付けと約束を」
負けたら、今年の内はもう出掛けないと、そう言ってニッと笑う孟隻にあわせるように政宗も口角を引き上げる。
「OK!ならオレは見える方に賭けるぜ」
「では私が見えない方だな」
お互いに絶対に敗けないと宣言し、未だ曇った夜空に向き直る。
結果を決める夜明けはまだ遠く。
しばらくは臥して会わなかった時の話でもして待つばかり。
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