ホワイトデー





「「「あ」」」


マンションのロビー、自動ドアの手前で鉢合わせる佐助、元就、政宗の三人。
時間帯からして、全員夕飯の買い出しといったところだろう。


探るようにちらりと交わされる目配せの後、誰からともなく出た話題はもちろん昨日のホワイトデーについて。


「…首尾はどうだ?」

「そりゃ…、聞くまでもないってやつ?」

「無論よ。貴様こそどうなのだ」

「Ha-n?誰に向かっていってんだ」


ぼそぼそと呟き合い、同時にニヤリと笑う。
バレンタインデーに皆で作ったチョコレート類は、どうやらひとつも無駄にはならなかったらしい。


「だって今年のホワイトデーって日曜日だったでしょ?」


〜〜佐助回想〜〜


毎年のホワイトデーは平日だから、当日はプレゼントだけもらって、次のお休みとかにデートするわけよ。
だってどうしたって大輔ちゃんの予定、ってか仕事優先になっちゃうでしょ?やっぱり俺様たちみたいな学生とは予定の内容とかちょっと違うし。

あ、分かってくれる?竜のダンナ!?そうだよねー、孟隻さんも遠征で居ないこと多いもんね。


…でね!?今年は珍しく日曜だったからさ、一緒に買い物して、ちょっと寄り道して、家で大輔ちゃんがご飯作ってくれるっていう、二人でずーっと一緒にいられる予定だったわけよ。

そんなの久々すぎて俺様もう、それだけですっごい嬉しくてさー…服とかもめちゃめちゃ気合い入っちゃった。


てか、そう!聞いてよ!まめで優しい大輔ちゃんだから、もちろんホワイトデーのプレゼントも用意してくれてたんだけどさ?プレゼントとは別にデートしてる時に見つけたスプリングコートも買ってくれちゃったんだよ!
去年のもあるしちょっと高めだからもったいないって言ったんだけど、俺様に似合ってるよとか、可愛いよとかいっぱい誉めてくれてね?それで最後は


「今度はそれ着てデートしような」


……って。可愛い恋人見ながらデートするのがすごい楽しみだって!!あぁもう本当、俺様すっごい愛されてる…!大輔ちゃんが恋人なんて俺様世界一幸せ者だし!
で!で!その時買ってもらったのがこれ。普段は着ないで大事にするつもりだったけど、今日だけは嬉しくって着てきちゃった!

え?似合うって?ありがと毛利のダンナ!だって大輔ちゃんが選んでくれたんだよ?似合うに決まってるって!だって大輔ちゃん趣味悪くないもん。
それに二人だって舜ちゃんとか孟隻さんが服選んでくれたらちょっとくらい無理にでも着こなすでしょ?
え?当然だって?知ってる。


…でね、昨日はそのまま家に帰って、大輔ちゃんの淹れてくれた紅茶飲みながら大輔ちゃんの料理姿を見てたってわけ。
俺様別に料理嫌いじゃないし、喜んでもらえるからむしろ好きなんだけどさ、でもやっぱり大輔ちゃんに作ってもらう料理も好きなんだよね〜!!

だって普段はあんまり作らないけど、大輔ちゃんて結構料理上手だし、何よりエプロン姿がもー、たまんないんだって!!男前がシンプルな格好にシンプルなエプロン着けて料理してる後ろ姿……本当に最高なんだから!!





* * * * *






「あー…今思い出してもにやけちゃうな〜大輔ちゃんのエプロン姿……普段はスーツとかキッチリした服ばっかりだから新鮮なんだよねー…」

「Oh…確かにそういうgapは侮れねぇぜ」

「でしょー!?」

「ふむ…、確かにコートも大輔も貴様には勿体ないくらいだな」

「酷!…まぁ、誉め言葉として貰っとくよ」

「だが、料理というなら我のほうが上だ」

「えーなになに?自信ありげじゃない?」

「フン」


〜〜元就回想〜〜


聞きたいならば教えてやろう。何を隠そう、昨日のホワイトデーに我は舜様と一緒に料理をしたのだ。

どうだ、猿飛。驚いたか?
…ふん言わずともその間抜け面の方が雄弁よ。

あの舜様がだぞ?貴様らのような阿呆には、想像するだに難しかろう。
寛大な我は事の初めから話し、舜様がいかに素晴らしい御方であるかということを貴様らにも再認識させてやろう。
悪い頭を精一杯回転させながらよく聞いているのだぞ。


…まず、全ての始まりはバレンタイン、あの日我が手作りチョコを差し上げた事に起因している。

あの日舜様は畏れ多くも我などの作ったチョコレートにいたく感動してくださったらしいのだ。その時から、お返しにいつか料理を作ってくださると仰っていた。

しかしそれがよもやホワイトデーとは思うまい。何しろ、…至極当然のことではあるが、お産まれになってこれまで一度も料理などなさったことなどない方だ。普通ならば失敗を恐れてそうすぐに厨房に立とうなどとは思わないだろう?
まして一応はイベント事であるホワイトデーの当日になど。

だが、やはり舜様は舜様。この決断と行動の早さが群を抜いておられる。勿論舜様に出来ぬことなどない故、料理の腕前も素晴らしいものであったぞ。初めて包丁を握った者の料理であるなど、おそらく誰も信じるまい。

見よ…、これがその時の写メだ。
どうだ独眼竜、貴様が料理上手であるなどと調子に乗っていられたのも昨日までよ。
わずかに料理本をご覧になっただけでこの腕前だ、三日もすれば舜様は三ツ星料理店のチェーン展開も可能だろう。

舜様にだけしていただくのはと我も手伝わせていただいたが、かえってお手を煩わせただけだったかもしれん。


…しかし、共に料理をさせていただいた事で、更に素晴らしい幸運に恵まれたことも確かなのだ…。

実は…、一度だけ手順を誤った際、…なんだ?いくら万能であられる舜際であってもミスくらいはなさるわ。

良いから黙って聞いていろ。
それで、そのミスというのは小さな火傷だったのだが……その際我に向かって仰った言葉が


「…痛くなくなるおまじない、して?」


だったのだっ!!

わかるか!?あれだけ威厳があり、誰もが称えるような美しい御方が、上目遣いで言われたのだぞ!?





* * * * *






「…つまり、ただ格好が良いだけでなく、破壊的な可愛らしさまでもを兼ね備えた舜様こそ、史上最高に魅力的な方なのだ!」

「…なんて強引な…、でも…確かにそれこそがギャップ…!悔しいけど羨ましい!」

「で!?勿論“おまじない”はしたんだろ?」

「無論」

「何してやったんだ?」

「にやつくな低俗な奴め。貴様になど教えてやらん」

「Ah?ケチくせぇヤツだな」

「でもそれいいなー…やっぱ俺様も一緒にやればよかったなー」

「フフン。羨ましかろう」

「…うーでも見てるだけってのも捨てがたいしー…」

「んじゃ、今度は一緒に作りゃあいいだろ」


〜〜政宗回想〜〜


なんだったら今日の夜にでも誘ってみろよ。孟隻と違って大輔は料理しねぇ訳じゃねーんだからな。
Ah?アイツは料理なんざ全然しねぇよ。アイツが料理する姿なんか想像つくか猿?
包丁が槍に見える?言えてるな。

てか、孟隻は食に全っ然興味がねぇ。喰えりゃあいいと思ってるのさ。

何?味オンチ?…それも否定できねぇんだぜこれが。どっちかっつうとアイツは匂いの良いもんが好きだし。逆に言やぁ匂いさえよけりゃ不味くても食うし。本当に作りがいがねーっつの。
……ま、美味い時は倍食うから、味オンチって決めきれねぇんだけどよ。


だからまぁ、一緒に料理なんざしたくてもできねぇな。味見も頼りにならねーし。


…って、Hey,毛利!テメェそんな顔すんな!だからって孟隻が格好悪いとか恋人として舜たちに劣るとかそういうわけじゃねぇぞ!
孟隻は大輔達に勝るとも劣らねー恋人だぜ?


ホワイトデーだって勿論、してもらったしな。

お前らも知ってるが、孟隻はRiderだろ?MotoGPの。まぁ、アイツは二輪なら何でも乗るけどな。
だから一番バイクを知ってるだけに、オレがいる時は危ないからって、絶対車で移動するんだよ。万が一何かあった時、生身のバイクじゃ助からねぇっつって。

確かに他人より事故死も見慣れやすい職業だから仕方ないっちゃあ、仕方ないけどな。

だけどよ…、普段あれだけCircuitで伝説扱いされてるヤツの後ろだぜ?やっぱり乗ってみたいじゃねぇか。
別にRaceの時みたいに走れって言ってるわけじゃなし。


でもな!そんな風にあんまりオレが乗せろって言うもんだから、昨日ついに孟隻が折れたんだよ!

高速かっ飛ばしてPAあるだけ巡って、ついでに京都で一泊。帰りも当然、あっという間だ。
そりゃもう気分だって最高だぜ?なんたって世界一のバイク乗りの運転だしな。速いだけじゃなく、半端なく上手いから振動とかも少ねぇし。乗ってる間中べったりくっつけるし?

おっ、分かるのか猿?そういや大輔もバイク乗るもんな。孟隻には及ばねぇけど。
Ah-n?比べんなって?確かにな。


…だがま、流石にクソ速ぇわ、一日中乗ってるわで最後の方は結構足元フラついてきちまってな。抱きついてる腕とかも若干痺れてたんだがよ…


「次のPAまで我慢できたら抱っこしてやる」


…なんて、フルフェイスの下で笑いやがった。本当、信じらんねぇだろ?風で聞こえねぇからって大声で叫びやがって…恥ずかしいヤツだぜ本当によ…
ムカつくっつうか憎ったらしいてか………んだよ?ニヤけてねーよ!


…でもまぁ、格好いいだろ?
止まる度にストレッチとかマッサージとかしてくれて、結構優しいしな…。





* * * * *






「…って訳だ。アイツは料理なんざできなくても十分格好良いんだよ」

「うわー…言い切ったよこの人」

「一人でにやけおって気色の悪い」

「Ha!強がっても羨ましいって顔に書いてあるぜ?」

「くっ…!」

「だってそれズルいって!孟隻さん世界チャンピオンじゃん!特権使いすぎ!」

「特権なんだからいいじゃねぇか」

「駄目だ!卑怯だぞ!」

「Shut up!いいだろ孟隻は料理できねぇんだし!」

「「それとこれとは話が別!」」



…なんて、玄関口でぐだぐだと言い争い兼自慢話を繰り広げているうちに、すっかり日が落ちていたわけで。

ようやく時間に気付いた三人が、慌てて買い物に行ったのは言うまでもない。








…オチ?構成?なんですかそれ。生まれて初めてすれ違った単語ですけど?


まぁ、バレンタインもぐっだぐだだったし…丁度いいんですよ!←

書きなぐり万歳。





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