涙と、ハンカチと





クリスマス。

街の中はイルミネーションがキラキラで、その中を恋人たちが楽しそうに歩いたり笑ったり。
まさに、誰も彼もが浮き足立ってる二日間だ。


それなのに…


「ぅおやかたさまぁあああぁ!!!」

「ゆきむぅらあぁああ!!!」

「ぅおやかた…」

「ゆ…」


………。

相変わらずエンドレスに続く殴り愛。
うん、いいんだよ別に。俺様だって嫌いじゃないよ二人のそういうとこは。
特に今日はクリスマスだし?イベントだもん、ちょっとくらい騒いでも怒らないけどね。


だからまぁ…いいんだけどさ?でもあんまりにも普段とやってる事が変わらなさすぎると思わない旦那たち?せっかくのサンタのコスプレ、二人の鼻血でカピカピになっちゃうって。
それ誰が作ったと思ってんの?



…なんて。本当なら微笑ましく見ていられるはずだった師弟愛。それをこんな風に半端な気持ちで見ているのは、きっと昨日の喧嘩のせい。

ていうか、大輔ちゃんのせい?

本当なら昨日デートしてご飯食べてプレゼント渡して、イブの間ずっと一緒に過ごす予定だったのにさ。途中、あんなどうでもいい事で喧嘩しちゃって。普段なら絶対譲ってくれるクセに、なんで今回に限っては折れないんだよ。
結局、真っ昼間に別れてそれっきり音信不通だし。信じらんない。
ほんと、最低。最悪。


『(………………)』


…でも、こんなことなら、変な意地なんか張らなけりゃ…俺様の方から折れとけばよかったのかな…。そしたら旦那たちとももっと楽しく過ごせたのにさ…。

今更会って謝りたくたって、今日は向こうは出張でいない。だから昨日、会う約束してたってのに…。

まさか、こんな気分で過ごすクリスマスなんか考えてもなかったよ。
はしゃぎ終わってご機嫌で部屋に引き上げていった大将たちまで恨めしく見えるんだから、もうほんと…俺様ってば駄目ダメすぎ。



そんな自己嫌悪と反省の真っ只中、放っていた携帯が小さく震えた。

なり続けるそれはメールではなく着信で。
画面に表示された名前は


『…うそ』


まさか喧嘩別れした次の日に、電話がかかってくるなんて思ってもみなかった。
慌てて出た携帯の向こうで、いつも通りの穏やかな声が今平気かと聞いてくる。部屋の外に出られないかと言われるがまま、怒るのも忘れて素直に玄関のドアを開けていた。


「佐助」

『……大輔ちゃん…』


部屋の前、見間違いかとも思ったが、瞬きしても目の前の相手が消える事はなくて。


『なんで…』

「やっぱり…会いたかったから、さ」


強引に帰ってきたのだと、少しだけ恥ずかしそうに笑って、照れ隠しみたいに腕を組み直す。
それが、なんだかやけに見慣れなくて、こっちまで変に照れちまった。


「…昨日は悪かった。なんか、変に意地になっちまってさ」

『…ううん……俺様の方こそ……ごめん』


その後のちょっとした沈黙が気恥ずかしくて、ごまかすように二人で笑いあった。
別に一日も空けずに会ったのに、何だってこんなに安心しちゃうんだろうね。


「…それで…何にしようか、かなり迷ったんだけどな」


結局これにしたのだと、手渡されたのは小さな箱と軽い包み。どちらも綺麗に赤いラッピングがされていた。


『あ……俺様も…あるよ』


ちょっと待っていてくれと部屋に取りに帰ったのは緑の小箱。金のリボンがちゃんとクリスマスっぽく付けられている。


一緒に見ようかと言い合って、マンションの廊下、何でもないところで二人で開ける。やけにおかしい感じもしたけれど、そんなことなんかに構ってはいられなくて。


『…!、これ…』

「やっぱり、佐助の希望が一番だよな」


あの後反省したのだと、また一つ小さく笑う。

包みを開けて出てきたのは、昨日喧嘩の原因になったヘアバンド。しかも、俺様が欲しがってた黒の。
ブランドで高くて手が出ない、でもめちゃくちゃカッコいいやつ。


「もう一つは、そんなに高いもんじゃねぇけどさ」


小さい箱にはペンダントが。それもちゃんと、ヘアバンドに合うような渋めのゴシック。
ちゃんと選んでくれたのかと思ったら、胸の奥がきゅうと鳴ったような気がした。


『…………る』

「ん…?」

『たまには前髪おろしてあげる、って言ったの』


ちょっと恥ずかしいけど、でもそれ以上に嬉しかったから。
びっくりしたみたいに目を見開いた大輔ちゃんは珍しくてちょっと面白かった。けど、その後びっくりするくらい幸せそうに笑ったから、まだ心臓がドキドキしてる。
…その不意討ちは卑怯だよ。


「佐助が許してくれなかったら、どうしようかと思ったぜ」

『こっちだってプレゼント無駄になるところだったんだからね?』


ゆっくり囲われる腕の中、すでに着けてくれたタイピンが胸元でキラリと光る。
いつかセットで買っておいたカフスを、出社前に自分が着けてあげるのだと密かに心に決めながら。


今日のところは、抱き合ったせいでプレゼントしたタイピンがで隠れてしまっても、良いってことにしておこう。







(最後はキスを)




佐助の前髪おろしたとこが見たい主人公。。
そこまで言われるとなんとなく恥ずかしいからおろしたくない佐助。
そして譲れない主張へ。

…くだらねぇ!笑


第一主人公×佐助を希望してくださった方、投函ありがとうございました!





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