もう終わりですか





「失礼、かすが様ですね?」


目の前でにこりと笑う怪しい黒服。

そして、その後ろで待っている真っ黒な高級車。


「主…孟隻様よりカードを預かってきております」


そう言って渡されたのは孟隻直筆のクリスマスカード。白い小さな封筒に、赤い蝋できちんと封泥が施され、紛れもなく孟隻直筆のものだとわかる。

…ただ不愉快なことに、中身は遅れるから先に行っていて欲しいという謝罪だったが。


「ホテルまでご案内するようにと申し付けられております。どうぞ、こちらへ」


ドアを開け、促されるまま中に入る。
座ったシートはあり得ないほど柔らかかった。





『…よく私だとわかったな』


走り出した車の後部座席、運転席に座る相手に話しかける。
あの辺りには、他にも車を待つ女は何人かいたのだが。この男はそれはもう素早く、自分が扉から出てきた瞬間に声をかけてきたのだ。


「私は主のプレゼント選びに付き合いましたので、間違いませんとも」


数日前、突然孟隻から送られてきた包み。開けてみれば、このやたらと背中の開いたフォーマルドレスが入っていた。しかも、今日着けてきてくれと装飾品まで全て揃って、だ。


「それに、主の話通り大変お美しかったので、一目でわかりました」


にこにこと、何が楽しいのか知らないが、それがやけに癪にさわる。
この小綺麗な顔の男が、こんな笑顔で孟隻と並んで歩いたのか。


『……さっきから主、主と言うが、孟隻はただの上司じゃないのか?こんな私用にまで従う必要なんて…』


ないだろうと言えば。


「まさか。主は我々が全霊を捧げてお仕えする方です。命令に公私はありませんよ」


相手はバックミラー越しに更ににっこりと笑ってそう言い切るのだ。
随分と信頼されたものだと思う反面、孟隻なら当然だとどこかで思っているから腹がたつ。


『ふん…で、結局孟隻は何を仕事にしている奴なんだ』

「申し訳ありませんが。それをお教えすると、貴女様の身が危なくなります」

『なっ…』


せめて孟隻本人から聞いてほしいと断られ、絶句する間にするすると車はロータリーに滑りこんで。


「さあ着きました。どうか、我が主と楽しい一時を過ごしてきてくださいませ」





* * * * *





そう言って放り込まれたフロアから、スムーズに通されたVIPルーム。

しかしそこにも孟隻の姿はなく。


結局あいつが現れたのは、三十分も待った後だ。


「思った通り、良く似合っている」


そのくせこれが第一声。全く悪びれないから私のイラつきは高まるばかりで。


「世界中を回ったが、お前ほど美しい者はいなかったぞ」

『…誘っておいて迎えに来ないなんて何考えてるんだ』


抱き寄せる腕を払って睨み付ける。一度口をついて出た文句はどうにも止まりそうにない。

…はじめから、止めるつもりはさらさらないが。


「飛行機が少々遅れてな」

『席についても待たされるし』

「すまん」

『お前は待ち合わせも予定も知らせて来ないし、私の予定だって一度も聞かない』


孟隻はいつもいつも強引で、自分勝手で、俺様で。これまでだって私を振り回したことしかない。今日こそは全部文句を言ってやろうと、言われた通りに大人しく待っていたんだ。


『こっちが電話しても繋がらないし、大体、私はお前がどこにいるのかも知らないんだぞ』

『私の都合も考えないし…お前なんか口先ばっかりだ』

『本当は、私のことなんか何とも思っていないんじゃないのか?』

『プレゼントだって、どうせ部下に買って来させただけなんだろ!』


だが、ずらずらと挙げだした私に、孟隻が驚いていたのは始めの少しだけ。
しばらくすると例の面白がるような顔になるのがまた神経を逆撫でする。


『クリスマスの夜に国外にとんぼ返りする恋人なんて聞いたことないぞ』

「すまんな」

『私は人に言えない仕事をするような奴は嫌いだ』

「勿論、知りたいなら教えてやるぞ」

『…っそんな危ない仕事で、私を残していくかもしれないお前なんか嫌いだ!』

「まさか。私がお前を残して死ぬもんか」

『そんなことわからないじゃないか!』

「わかる。言い切れるさ」


どうしてと問い詰めたいのに、反論できない自分に腹がたつ。
なんでこいつはこんなに自信ありげなんだ。


『こ、このドレスだって…恥ずかしいんだぞ!』

「だが、着てくれた」

『靴も服もぴったりで…なんでサイズを知ってるんだ!』

「そりゃあ、愛しいお前の事だからな」


指輪のサイズも知っているぞと、嵌められたそれも憎らしいくらいぴったりで。

憎らしいくらい、私好みのデザインだった。


「もう終わりか?」

『…!!』

「もしそれで全部なら、そんな些細な理由では私はお前を諦めてはやれんな」


目の前でにっこりと、楽しそうに笑う。


「メリークリスマスかすが」


堂々と愛していると宣言され、嬉しくて恥ずかしくて。


今年もまた自分もだと同意し損ねた。







(顔を洗って出直してください)




まだまだ女主×かすがも押します(笑)
素直に寂しかったって言えないかすがに萌えるって言いたかっただけです←





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