愛される幸せ、愛する難しさ
クリスマス、人の多い駅前で待ち合わせる。
昼を過ぎてますます高まった人口密度に、一瞬、本当に目的の相手に会えるのだろうかと不安になった。
が。
それは全くの杞憂だったと知る。
「…待ったか?」
『いえ…』
目的の相手――舜様が進まれる道は人混みも消えるということを忘れていた。
こちらに来られるまでの間、舜様の前は言わずとも勝手に人垣が割れる。この方が見つからないなどと、無意味な心配をしたものだ。
『どこか、回りたい場所はございますか?』
「いや…元就は?」
…ただ、道を開けた後も周囲の視線が少しも舜様から離れないことが気になるが。
駅前を離れ歩き出した後も、視線はどこまでも付いて来る。
舜様の供をさせていただく時は必ず起こることではあるのだが、何時まで経っても慣れないものだ。
ともかく歩き出した街路はイルミネーションも華やかで、道を歩くだけでも緊張する。ビル街の広場、普段はただのベンチだというのに、こんな時ばかり、まるで童話の馬車のようだ。
座ってお互いに携帯で写真を撮って、天にも昇るような幸せを噛み締めた。
しかししばらく話し、また歩き出そうとすれば、また周りの人垣が視界に入る。
それに何よりも、時たま動く舜様の目線。
それは景色や何かを見るというよりは、ご自身に向けられた視線の元を辿っておられるようで。
…何度もその仕草を見てしまうと、我の代わりにお側に置く者を探しておられるような気さえしてしまう。
「元就?」
気付けば足が止まっていた我を、不思議そうに振り返ってくださる。
ただその目線を向けていただけた事が嬉しい。勿論、先の仕草も自分の被害妄想だということは、わかっているのだ。
『……あ…いえ…』
だから、何でもないと続けようと口を開きかけた時、その心配そうにじっと我を見つめる目と正面からかち合って。
思わず、秘めていたはずの本音がこぼれだしてしまっていた。
『……他の者を、舜様の視界に入れないでください…』
「………?」
『…今日だけでも、我だけを見ていて欲しいのです…』
身勝手な独占欲だということは知っている。知っているからこそ、今まで隠して来たというのに。
『、申し訳ございません…忘れてください』
例え今日だけだとしても、自分には過ぎた願いだと思い、すぐさま取り消そうとした。
「………いや」
しかし顔を逸らして逃げた目線は、舜様本人によって再び元に戻されて。
「俺は、元就しか見てない」
そう言って優しく微笑まれた後、ご自身の願いも聞いて欲しいと、ただ手渡された小さな紙袋。
「開けて」
言われるままに中身を取り出しリボンを解く。丁寧にラッピングを外し、現れた箱を開けてみれば。
『…!これは…』
中には金属製のシンプルな腕時計。滑らかなシルエットがいかにも上品なデザインで。
やはり、舜様は趣味の良い方だと改めて思う。
だがそれよりも、
『あ、あの……我も…』
用意してあるのだと、そっと差し出したプレゼント。先に頂いてしまったことは予定外だったが、自分だけが貰う訳にはいかない。
そしておずおずと出したそれを、もしも受け取って頂けなかったらという心配は、ほんの数秒も続かなかった。
「開けていい?」
『も、もちろんです!』
包みは差し出した瞬間、手の上から消えていて。狭量な我からの贈り物ですら受け取ってくださるとは、やはり、舜様はなんと素晴らしいお方なのだ。
舜様が包みを解く間、はらはらしながらその反応を待っ。
何しろ、自分が用意したプレゼントというのも、舜様と同じ腕時計なのだ。
選択が重なってしまったことに加え、舜様の趣味の良さを考えると、平然と待っている事などとても出来るものではない。
だが、すぐさまご自身の時計と付け替え、満足そうに微笑まれたので、気に入っていただけたようだと胸を撫で下ろす。
そのまましばらく、お互いの腕に着いた時計を眺めた後。
「…今日は、部屋で過ごそうか」
『…、はい!!』
帰り道にポケットの中で繋いだ手。
ほどけないように、少しだけ力を込めた。
(シンクロしてます、ね)
最後まで室内か外か迷った第二主元就でしたが、今回は外ということで。
室内はまたいつかどこかで使わせて頂きたいと思います。
たくさんの投函ありがとうございました!
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