素直になる、つもり





クリスマスプレゼントと称して渡した服。
中身を見た瞬間、政宗は絶句していたが。
それでも宥め賺して甘えてみせて、漸く着せた女物。
その苦労も目の前にいる相手を見れば報われるというものだ。


「………何見てんだよ?」

『お前の足』


素直にそう言えば、政宗は馬鹿だろうと怒るばかりだが。
相変わらず照れ屋なことだ。


『どうせ皆がお前を見ているぞ』

「っ!…バレてるのか…!?」


まさか。そんなわけないだろう。
道行く男どころか女までもが振り返るような美女だぞ今の政宗は。
例えそれに惹かれて目で追ったところで、そこらの者には見抜けやしないさ。


『お前が美人だからだ』

「ふざけんな!こっちは冗談に付き合う気分じゃねぇんだよ」


冗談を言ったつもりは微塵もない。
というか、基本的に政宗は普段から注目を集めている。ただ普段は本人が周囲の目を全く意識していないというだけでな。
確かに今は、多少視線の元に男が多いという違いはあるかも知れないが。


『もし今私と離れたら、お前はあの店まで行くのも手こずるぞ』


今だって周りの者全てがチラチラと、下手な者はじろじろと政宗一人を見つめている。この様子なら、一人になった瞬間声がかかるのは明らかだ。

というか、かかり過ぎて前に進めなくなると私は踏んでいる。
つまりそれくらい美しい姿なのだと誉めたつもりだった。


「馬鹿にすんじゃねぇよ、ガキじゃあるまいし」


それくらい簡単だと言う政宗。そういう意味ではないんだが。
どうも政宗は私が子供扱いしていると思い込んでいる節がある。


『なら、あの店でコーヒー一杯買ってきてみろ』


おつかいだぞと揶揄ったら、隻眼で目一杯睨み付けてきた。


「…孟隻」

『買って来れたら何でも言うことを聞いてやるぞ?』


まあ十中八九無理だろう。
例え男の姿であったとしても、政宗になら男女問わず声をかけて来るだろうからな。


「その言葉、忘れんじゃねぇぞ…」


引き吊ったような笑みを浮かべて、ゆっくりと席を立つ。
その後ろ姿を眺めながら、政宗は今までの相手の中では頭抜けて気難しいと改めて思い直す。

勿論、その分可愛らしくもあるのだが。



面白半分に見ていれば、私の予想通り、政宗は向かいの道に渡る前から声をかけられているわけだ。

一人目、二人目、スカウト、二人組…みるみるうちに、面白いほど立派な人垣が出来上がっていく。
やはり、私の政宗は万人が認める美しさだな。人垣のせいで私から政宗が見えないのは些か不満ではあるが。


「……っ!…」


…程度に思っていたのだが。


「ちょっ…テメェどこ触ってやがる!」


苛立ち混じりの焦ったような政宗の声。
…流石にそれは見過ごせん。


『おい』


大股でたった五歩。
この距離でまさか政宗の悲鳴を聞くとは、私も焼きが回ったか。


「…!…………」


自分に気付き渋い顔をする政宗を無視し、すぐ傍まで歩を進める。政宗を半ば強制的に抱き付かせ、そのままぐるりと見渡した。


『お前らは見るだけだ』


周りを囲んでいた者共を脅してやろうかと思ったが、言う前に人垣は消えて無くなっていて。
たかだか二言で逃げ散った奴等など捨て置いて、今日はもう部屋に戻ることにしよう。どうせクリスマスは昨日終わっている。今日は大した用事もない。


『美人過ぎるのも考えものだな。政宗』


いや全く、スカートなんざ穿かせるもんじゃない。
あんな馬鹿共には絡まれるし、流石に男と知れては不味いから、政宗も蹴りひとつ出せやしない。


「うっせぇんだよ。元はといやぁお前がこんな阿呆な格好…」

『そうだな。私が悪い。お前の魅力を甘く見すぎていた』


見せびらかすのは楽しいが、やり過ぎるのは考え物だったな。
それで結局政宗の機嫌を損ねるようでは、全くもって意味がない。


『悪かった』


冗談が過ぎたと詫びれば、抱き着いたまま何も言わずにそっぽを向く。
その上、背中に回られたものだから、表情がまるで見えなくなってしまった。


『だが言っておくがな』


すっかり拗ねた政宗を腰に張り付けたまま、ずるずるとゆっくり家路を辿る。


『私は別に、お前を女扱いなんかしていないぞ』


当然、子供扱いなんて論外だ。
幸村や佐助じゃあるまいし。


『特別扱いしているだけだ』


ただそれだけの話。他の扱いに見えるのは、単に私が余裕のある素振りが癖になっているからというだけで。


「…………か…?」

『うん?』

「…妬いたのかって聞いたんだよ!」


こんな格好をしたのも、あんな見え透いた挑発に乗ったのも、ただそんな事の為かと思う。
強くなった拘束が愉しくて、弛む頬が直らない。


『お前、私が妬かない程出来た人間だと思っているのか?』


焦るお前は可愛いが、意地っ張りなお前が焦る程の事をした奴は、殺してやろうかと思ったとも。

まあ、結果が分かっていてやらせた私も悪いが、これを我が儘とは思うなよ。


「…こんな服、二度と着ねぇからな!」

『家に真っ当なプレゼントも用意してあるから安心しろ』

「!…っだったら初めっからそれ出せよ!」


大嫌いだと喚く政宗の腕を自分に巻き付け、逃げられないようしっかりと固定する。
流石にもう同じ轍は踏みたくないからな。


『一日だけでもお前に着せたかったのさ』


普段の格好の良い服もいいが、たまには可愛らしい服で、恥じらうお前が見たかっただけだ。

だから心配しなくとも、その服を脱がせた後でちゃんとお前も納得する物を渡してやるさ。







(愛が重い?足りないくらいです)




「…締まりのねぇ面してんじゃねーよ!」

『お前こそしてるだろう』

「見えねぇクセに何言ってやがんだ」

『お前こそ見えないだろう』

「声でわかんだよ」

『私だってわかるとも』

「お前は…………」

『…………』

「……」




…みたいな帰宅風景はどうでしょう(笑)


なんだか女主政宗は詰め込みすぎる傾向にあります;

投函ありがとうございました!





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