キスよりも欲しいの
12月27日。
今日は世間でいうところの……まぁ、平日だ。
そろそろ年越しの支度をしなけりゃならない時期ってくらいか?
だが、オレにとっては平日なんてとんでもねぇ。
部屋中に飾ったモールもキャンドルも、テーブルに山ほど並べた料理も何もかも、全ては今日戻って来る孟隻のため。
二人で二日遅れのクリスマスをやるためだ。
その為なら、カレンダーとちょっとズレるくらいは目をつぶってやってもいい。
部屋の真ん中に引っ張り出したクリスマスツリーだって、二人暮らしには随分とでかい。それでもアイツが帰ってくると思えば、口が勝手に注文していたくらいだぜ。
早く帰って来いって何度思ったかわかりゃしねぇよ。
…だってのに。
孟隻が帰ると言っていた時間は随分前に過ぎていて、それでもまだドアが開く気配はない。
チラリと時計を見ては、また玄関の方を見る。無駄な事だとはわかっているが、つい何度も繰り返してしまう。
開かないドアに苛つきながら、冷蔵庫のサラダを確かめたりワイングラスを磨き直したり…ちっとも落ち着かねぇ。
だが、どれだけそんなことをしていたか分からないが、ついに廊下を走る足音が近づいて。
「政宗!」
勢い良く開く扉と、開口一番にオレの名を呼ぶ声。
『、遅ぇんだよ!』
ドアを開けて靴を脱いで、脇目もふらず一直線にオレのところへ。
足早に眼前まで来たと思ったら、文句を言う間もなく抱きすくめられていた。
「悪かったな、待たせたか?」
ぎゅうぎゅうと音がしそうなほど抱き着かれて、本当は帰って来ないんじゃないかと不安だったのが嘘のように吹き飛んだ。
…なんて、ムカつくから口が裂けても言ってなんかやらねぇが。
『アンタが遅ぇからすっかりchickenが冷めちまったぜ』
「なに、お前の料理なら冷めても最高だ」
『食うのはアンタだけじゃねぇんだよ』
バカと悪態をついても、孟隻は上機嫌に笑うだけだ。
そんな顔も、顔中に落とされるキスも、背中に回された腕も、よく三ヶ月も忘れていられたもんだとか、思っちまうオレはやっぱり女々しいんだろうか。
しばらくそんなやり取りをしてふと、孟隻の上着の肩が濡れているのに気が付いた。
頬に触れる部分がやや冷たく、よく見れば小さな氷の結晶まで。確かに今日は雪の予報だったが…
『…アンタ、傘くらい持ってたよな?』
何せ三ヶ月も滞在していたのだ。背負ってきたあのバカでかい鞄には傘の一本や二本入っているだろうに。
「いやいや、傘なんか開いていては走れないだろうが」
もう一度強く抱きつかれて、耳元で笑う声がする。
「だがお前のプレゼントはちゃんと上着のの中に入れて来たから大丈夫だ」
そう言ってコートの下から取り出した包みは、若干ラッピングがよれてはいたが、確かにどこも濡れていない。
得意気に笑う孟隻に一瞬、とんでもなく間抜けな顔を晒してしまった。
『…アンタ、ほんとに馬鹿なんじゃねーの?』
照れ隠しに再び抱き締めれば、上手いこと孟隻の胸で自分の顔は隠れるから。
『風邪なんかひいたら承知しねぇからな』
「私はそんなにヤワじゃあないぞ」
喉の奥で笑う孟隻の腕が、オレに応えるように背中に回される。
抱き締めた分、抱きかえされるのが嬉しい。
アンタが傍にいるのが嬉しい。
アンタも、オレといたいと思ってくれたことが嬉しくて、せっかくのアンタの顔もまともに見れやしない。
「……ああー…お前の匂いだ」
オレの首元に顔を寄せる。深く、深呼吸でもされているようで恥ずかしいし、当たる鼻先がくすぐったい。
それでも。
その分だけアンタが近くにいる証拠だから。
『アンタの匂いだ…』
背中に回した腕に思いっきり力を込めて、深く、孟隻の存在を確かめた。
(料理は冷めてしまいました)
…なんか、気合いが入りすぎて長くなってしまいましたよ?
前の第一主くらいにする予定だったのに。
しかも空回り気味…?(・ω・;)
でもめっちゃ楽しかったです!←
投函ありがとうございましたー!
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