乙
今までのようにこの森に来て、ただこの男の鎖を外すだけだったはずなのに。
なんで、こんなことになったんだ。
「よくやった!暫く私から離れるなよ」
『な、に…?』
「話は後だ。しっかり掴まっていろ」
軽々とオレを抱き抱えたまま、男はその場にすっくと立つ。
じゃらりと鳴った鎖が、実は意外と長いのだということに気がついた。
すらりと腰の刀を抜いたかと思ったら、それを一振り、二振り。
それだけで自分たちの足下には忍の飛び道具がばらばらと溜まって落ちた。
「退け!死にたい者だけかかって来い!」
男がそう吼えれば、更に飛び道具が。
それどころか、火薬に爆薬、毒液のようなものが入った瓶まで飛んできた。
…ようだが、男がみな弾いてしまったから正確にはわからない。
「安心しろ。私の間合いに居る限り、虫一匹お前には近寄れないさ」
手足が固まってうまく動かせないオレに、自信満々に男は笑う。
そんなことがどうして言い切れるもんかとただ怖くて、いっそ離してくれと言いたくなった。そしたら走って逃げられるかもしてないのにと。
でも、その言葉が嘘ではないとわかるのに、そう長くはかからなかった。
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