※「独り言の続いた夜明け」の続きです。







ぴりり、と頬に走る痛み。

すぐそばで起きた風が、目にも止まらぬ速さで何かが通りすぎたことを知らせてくる。
何よりも、後ろでした重い何かが落ちるような音。


「止まるな!」


反射的に後ろを振り返ろうとする自分と、それを妨げようとする鋭い声。
空を貫くようなその声と同時に、何回も周囲を掠める見えない羽音。


「走れ!決して足を止めるなよ!」


来いと叱咤する声に引きずられるように駆けながら、気づけば掴んだ小刀を思わず固く握りしめていて。
もつれそうになる足と、弓を構える男に向かって走る恐怖と。掠めるそれも落ちる音も、向けられる殺気すらその時はただただ意識の外にあった。


とにかく無我夢中のままやっとたどり着いた男の元。勢い余って男の胸に飛び込んでしまったが、さも平然としっかりと男は自分の体を受け止めた。





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