『…そんなこと言って、ほんとはオレが近づいたら殺すつもりなんだろ』

「…?何故私がお前を殺すんだ?」

『回りくどい格好しやがって、どうせお前も刺客だろうが』


摩訶不思議な光景に一瞬呆気にとられてしまったが、誰であれ警戒しろと散々言われた言葉が頭の中で繰り返される。

だから、わかっているんだぞと睨み付けたつもりだったのに、男はきょとんと、まるで意外そうな顔をするのだ。


「刺客…そうなのか…?だが、お前は誰だ。私はお前なぞ知らん」

『なに…?』

「というか、私は私の名も知らん。思い出せないのだ」


ここに繋がれるまでのことが一切記憶にないのだと、不思議そうに首を傾げる。
ぼんやりと斜め上の虚空を見上げ、目の前の自分のことなどまるで忘れてしまったかのようだ。


「…だが」


ふいに見上げていた視線が戻り、さらりと、真っ黒な髪が揺れる。
頭上高くで結ったそれは、まるでたてがみのようだと思った。


『?』


「飽きた。私は此処を離れたい」


そう言って自分をひたと見つめる目は穏やかで、天を丸ごと収めたよう。

もしも繋ぐ鎖がなければ、きっとこの男は空さえ飛ぶにちがいない。
城の中にさえ居場所のない自分とは、なんと対照的なのか。

堂々としたその顔にあっては、右目に走る大きな傷さえ自由と自信の証にすら見えるほど。


『………次に来るときは、何か切るものを持ってきてやる』


その全てに圧倒されて、気づけばそんな言葉がこぼれていた。

それに応と笑った顔があんまりにも明け透けすぎて。
まるで自分がこの若い龍を手懐けられたようにすら思えたから。



背を向けて城に走る間、なぜか、嬉しくてしかたなかった。







〜〜〜〜〜〜
この二人が子供時代にあってるとか考えだしたら、気づけばこんな設定に笑





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