03
「空から落ちたらこの池だった」
平然と、当たり前のようにそう言ってのけた相手は、確かに頭のてっぺんから足の先までずぶ濡れだった。
…だったが、まさか鵜呑みにはできねぇな。
見たこともねぇ着物に履き物。忍びにしても身軽すぎる。こんなに目立つ格好じゃあ乱破透破の類いでもないんだろうが…
「んな嘘誰が信じるんだよ!ちゃんとこの辺で不審者がいたって報告があったんだからな!」
「まあ、確かに不審者だろうけどよ…俺はここに来たばっかりだ。お前以外とは会ってねぇぞ」
嘘をつくなとわめく成実と、呆れたような困ったような男。
コイツがまた面白いくらい動じていないから大したもんだ。普通なら馬に跨がった武士相手にこうも落ち着いてはいられねぇだろうに。
ますます怪しい男だぜ。
「…じゃあ何て言えば信じるんだ?」
『お前の軍を言やぁ信じてやるぜ?』
「っ殿!?」
どうしてここにと騒ぐのはやっぱり成実だけ。男はまるで涼しい顔だ。
コイツ本当は気オレの存在に付いてたんじゃねぇか?
『それを言うまでは信用できねぇな』
「成る程…」
腕を組んで。
あぁ、まったく余裕だなアンタ。
やっぱり小十郎を置いてきて正解だったぜ。
でなけりゃとっくに斬りかかってるだろうよ。
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