花麒麟
日当たりの良い窓辺。
風の吹かないそのあたりは、今日のような小春日和にはどうしようもなく気が緩む。
ほんの休憩のつもりだったが、そもそも寝転んだのが間違いだったようだ…と今更反省してももう遅い。
あっという間にうつろにぼやける意識と思考。
音がしないのは周りが静かだからかそれとも既に俺が眠りはじめているからなのか。
…なんて、取り留めのない考えがただぼんやりと頭を巡る。
こんな脈絡のない思考ではこの抗いようのない睡魔には到底打ち勝てる訳もなく。まったく焼け石に水もいいところなのだ。
もはや強烈すぎる誘惑の前にそんなささやかな抵抗すらもそろそろ本当に放棄してしまおうかと思った頃。
「…寝ちゃってるの?」
耳にしたのは優しい声音。
それが小さく自分を呼ぶ。
「ねぇ…」
脳内に甘く優しく響く音。聞こえていると教えたいのに、まどろみの中に浸る体は驚くほどに御しがたく。
まだ起きているのだと思う端からずるずると深みに引きずり込まれていくようだ。
「…………………。」
一瞬世界は暗くなり、行ってしまうのかと思った矢先。
ふわり、と動いた微かな風と。
そして感じるやわらかさ。
それはこの世で、これ以上に強力な引力があるのだろうかというような。
「…おはよ」
誘われるまま目を開ければ、うっすらと広がる世界いっぱいに佐助が映る。
やらわかな挨拶に答えようと未だ緩慢な動きでゆるゆると手を上げればもう一度優しく口付けられた。
「おきてよ大輔ちゃん」
笑いながらからかうように囁かれ、穏やかなばかりに笑いかけられてしまうなら。
「はやく俺様にもしてね」
言われるまでもない。
俺だってはやく佐助にキスしたいよ。
(キスミークイック)
* * * * *
キスミークイックは花麒麟(←花の名前)の別名です。
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