十五夜





満月の夜には蝶が来る。
障子を開けたつもりはないし、戸を開いた覚えもないが何故かそれは入り込んでいる。
切り捨てようかと思ったが気が乗らず、ただ意識の外に追いやった。
しかしそのまま忘れて暫く経ち、ふと見れば蝶はおらず、机には折り結ばれた紙が一片。
初めは刑部の仕業かと思ったが、あの男はこんな趣向をしない。
無駄なことはするが、こんなにも意味のないことはしない。
薄気味の悪いその紙など燃やしてしまおうと思ったが、何故か出来ず、気付けばそれを開いていた。
中にはたった一行。
不愉快な悪戯だ。
だが、何故か燃やすことも破ることも出来ず。

蝶が新月の夜にも来るようになったせいで紙はたまる一方。
文面は常に同じ。たった一行。
最早開かなくとも分かるそれを開く度、不可思議な感覚が去来する。
不愉快な蝶を切り捨てられないのは、この感覚が不快でなかったのが悪い。
あの月が、満ちて欠けるから悪いのだ。





- 57 -


[*前] | [次#]
ページ:




目次へ
topへ



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -