異武ん戈交流
『…全く面白い戦い方をするよお前は』
既に手に馴染みつつある棒。刃もなければ石突もないただの鉄だ。
練習用に武田殿に誂えてもらったそれを肩に立てかけて腕を組む。
「そりゃそうかも知れないけどさ。孟隻さんの動きもかなり独特だと思うよ?」
目の前の忍というやつは、手近な庭の石にへたり込みながら返して来た。
へらりと笑っているが、それなりに疲れてはいるのだろう。
『しかしどうした。猿飛が稽古に来るとはな』
そう言えば、だってさと、わざとらしく首を竦めて見せる。
珍しく手合わせを申し込んできたのは猿飛。その主とは違い、この男がその目的でここに来る事は滅多に無いのだが。
「孟隻さんがどんどんダンナのこと鍛えちゃうからさ?俺様だって置いてかれるわけにいかないじゃん」
主君より強くあれたらと思うのは、武将としては当然だ。軍師と違い、そうでなければ主を支える術がない。
ただ、上の二人が頭抜けて知勇に優れるこの武田では、多少難しいことではあるだろうが。
しかしそれでも佐助は手を抜かないのが偉いと思うよ。
そういう軍では主君に頼りきる者も出てしまうのが現実だからな。
『良い心掛けだ。しかし幸村は随分無駄があるからな…』
「…うっそぉ!?あれで?」
追いかける佐助には悪いが、荒削りな分だけ幸村を伸ばすのは実に簡単なのだ。
どちらかと言えば猿飛の方が整っている。何が、と明言はし難いが、強いて言うなら流れの作り方というか、配分の計算というか…。
多分猿飛の方が自分の能力を知っているんだろうな。
『まだまだ伸びるぞあの子供は』
「子供って…じゃあ俺様は?」
『勿論、今の状態は限界とは程遠いな』
独特の動きを見せるし、幸村よりは形が出来上がっているとは言え。
まだまだ隙だらけで煮詰める余地は大いにある。
「んー…それって嬉しいような嬉しくないような…ちょっと複雑かも」
石の上で少々唸る。
普段飄々として見せるだけに、真面目なそれがなんとも面白い。
「…そういえば、孟隻さんは直刀だよね」
そんな姿を珍しがって眺めていると、急に佐助が話を変える。
視線は私が腰に下げた元の世の刀に向かっていた。
『まあ、曲がっていても構わんがな』
確かにこちらの刀は曲がっている物が多いらしい。勿論あちらの世にも湾曲した物はあった。
だがそれ以上に、こちらの物は細くてやけに薄いのが特徴だ。
よくあれで折れないと思うよ。
これでは振るい方が違うのも仕方がない話だろう。
『その内に、こちらの刀も使ってみるかな』
折らずに振るうのは難しそうだが。
そう、ふと思って口に出せば。
「俺様が教えようか?」
にこにこと笑う佐助が自分のことを指差していた。
『佐助は得物が違うだろう』
「やだなー、一通りはできますってー」
どうやらこちらの世界では、刀の扱いがまず基本としてあるらしい。
そんなに戦いやすそうな武器には見えないが…。
しかしまあ、こちらの文化に親しんでみるのも悪くはない。
『なら、教えてもらうか』
せっかく得た別の生だ。楽しんだ方が得というもの。
だが、まさかこの年で新しい武術に手を出すとは思っても見なかったが。
「でも本当にいいの〜?俺様厳しいよ?」
『ハハハ…私も厳しいからあいこだな』
げぇと顔をしかめた佐助と笑う。
たまには幸村以外の相手も悪くないもんだ。
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