私の三歩前を歩く君





ふと

アンタは月を見て、雲を見て、地平の彼方を眺めやる

その目がひどく遠くて、つまらなさそうで

その度にオレはアンタが居なくなってしまうんじゃないかと怖くて仕方がない

…と、アンタには気付かせたいような、気付かせたくないような

そんな微妙な男心




[side 政宗]




「Hey,hone…y……」

孟隻がこの城に長逗留してしばらく経つ。
珍しいこともあるもんだと思った矢先、当然のように雨が続いて孟隻の滞在は更に長引いている。

オレとしては純粋に嬉しいし、城の皆も見るからに楽しそうで。
孟隻本人にしたって満更でもなさそうだから、たまにはこんな事があったっていいと思ってた。

だから軽く…本当に軽い気持ちで孟隻の部屋の戸を引いたんだ。

「………」

それなのに、部屋に居たアンタは雨にもかかわらず窓を開け放っていて、物憂げにそこから続く外を眺めていた。
すぐにオレに向けて手を伸ばしたが、その一瞬前の顔がどうにも頭から離れなくて。

この雨が止んだら、やっぱりまた行ってしまうのだと思えば悲しいどころかいっそ悔しかった。
真っ向から出るなと言っても約束が取り付けられた例はないし、だからって裏をかけたこともない。
孟隻はいつだって気付けば自分の包囲を抜けているのだ。

パワーバランスを思い知らされる反面、そのしたたかさに感心して憧れている自分がまた悔しい。

常に自分の先を行く相手。どうしたら引き止められるのか。
そればかりを考え続けた最後、思いついたのはありえねぇような馬鹿馬鹿しい方法。
それでも実行してしまったのは完全にヤケクソだ。

長雨のせいでまだ濡れている花。片手分しか集まっていない。
これを持って戻っても、もうとっくに孟隻はいないかもしれないが。
…というか、きっといない。それはもうほぼ間違いなく。

だって摘んでいる間に日は昇りきってる上、空は昨日とは打ってかわって雲一つない。
こんな晴天でアイツが大人しく城になんかいるわけないのだ。


「政宗」


…あぁホラ見ろ。振り向いた目に映る孟隻が着てるのは、見慣れてしまった遠い異国の陣羽織。
背負ったえびらに強弓、直刀、いつもの大戟と気持ちばかりの簡単な旅装。

「(……やっぱり出立するんじゃねぇか。)」

そう思ったら余計に苛ついて虚しくて、半分以上捨て鉢にカッコ悪ィ台詞を重ねて。
そしたら。

「止めた」

「…ぇ…?」

「今はお前が愛おしすぎて出て行く気が失せた」

まさか。

思わず出かけた声を飲み込んで代わりに目一杯言われた言葉を反芻する。
いや、だって、そんなバカな。
お前がオレの行動で、こんなにも簡単に足を止めるなんて。

「…本当だな!?」

「無論だとも」

おまけにそんなに顔でオレを見るなんて、ますます信じられない。
嬉しそうに抱き締めてくる腕も、耳の隣で聞こえる喉の奥で笑う音も、まるでお前が楽しいと思っているみたいじゃねぇか。
昨日までオレの城であんなにつまらなそうな顔をしていたくせに。
あんなに外ばかり見て、愛馬ばかり気にしていたくせに。
今だってそんな外套で旅装で完全にしばらくは戻ってこないような装備で。


なんてなんて ずるい、愛しいヤツ。


自分の力で孟隻を留められると知ってしまったら、オレは尚更躍起になって手を尽くして、ますますハマっちまうだろうが。
今回はコイツも無意識にやった事なのか、なんの含みもないようなただただ純粋な顔をしているからなお悪い。
いっそ清々しいほど卑怯な人タラシ。お前は……嗚呼、まったくなんてヤツめ!

悔しいがまたこれでオレは足掻いてしまう。
おそらく今回はまたあっという間に出て行ってしまうんだろうが、それでもいつかはずっと傍に置けるようになるんじゃないかと期待して。

孟隻の思惑ですらないのに、まるで思惑通りのように。
寂しい悲しいなんざ口が裂けても言わねぇが、その分全力を注いでずっとお前を引き留める努力をしちまうオレを笑え馬鹿野郎。
笑ってそれでお前の足が止まるなら…もうオレは腹ァ括ってやるよ。






まだまだ、繋ぎ止め続けてはいられねぇけども。
いつかは孟隻の方が離れられないような男になるのだと心の中で誓いなおして。

今日はとにかく、お前を此処に引き留められて良かった。





* * * * *






ずいぶん間があいたせいか気ままに書きすぎたせいか(笑)主人公バージョンと雰囲気が変わってしまいました。か?
聞くなよって?ですよねー

まぁいいんですいいんです( ̄∀ ̄)どうせ草鞋クオリティ。





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