充実恋愛





※ご注意!※

この話では主人公は名前しか出てきません!
延々と政宗とオリキャラまがいの奥さんたちが話しているだけの話です!

それでもオッケーさ!と言う御方のみ先へ進んでくださいませ!





* * * * *










気分転換に歩いていた城内。長い廊下に差し掛かり、どこまで行こうかと考えながら進んでいる途中。

「…、………、!…」

どこからともなく聞こえてくる話し声。
もちろん、この廊下には自分以外の誰もいない。

「…ま……て、…せ!」

一瞬何事かと思ったが、よくよく聞けばそれは聞きなれた声で。
となれば成る程、この奥殿の廊下で聞こえてもおかしくはないものだ。
奥殿には高位の者しか入れないから誰もいないだろうと思っていたが、少々早とちりだったらしい。

すらりと手近の襖を開ければ、

「猫ちゃん」

「っ愛姫さま!」

予想通り、可愛らしい少女がぺたりと床に座り込んでいた。

「こんな所でどうしたの?」

自分と同じ奥屋敷に住む彼女ならばたとえ何処にいようと問題はない。
…問題はないが、ここのような屋敷の端の小部屋などには、側室である彼女が訪れる必要もないはずだが。

「それが…殿が…」

愛らしい眉を下げながら、困りきったとでもいうように言葉を途切れさす。
ちらりと向かう視線の先を辿れば、成る程彼女が困るわけだと納得した。

明かりとりの開かない格子窓。その側に、こちらに背中を向けて寝転がっている人物。
彼の人は正しく自分たちの夫に間違いないだろう。

「…また、孟隻様絡みなのね?」

「……はい」

彼女の話によると、殿が朝起きるとすでに一瞬に眠ったはずの孟隻様の姿はなく。それどころか城下中探しても見当たらなくなっていたのだとか。

「…それで城下町から戻られて以来、あの通りなんです」

「あらまぁ…孟隻様も相変わらずなのねぇ」

後はふてくされて動かなくなった殿を彼女が発見し、なんとか元気付けようとしていたに違いなく。先ほど聞こえていた声もおそらくはそのせいなのだろう。
健気に苦心する彼女が目に浮かぶ。

「殿はまた置いてきぼりだから拗ねておられるの?」

彼女は深く頷くと、細いため息と共にきゅっと自分の着物を握る。

「孟隻さまも、行き先くらい告げてくださればよいのに……殿だけでなく、私だって心配ですもの」

「そうねぇ…いくら孟隻様がお強いといっても、待つだけの身には不安だわ」

普通ならば夫の恋しがる相手など憎らしいだけのはずなのに、妻二人が揃って心配しているだなんて不思議だこと。
それでも孟隻様が相手だと思うと、いっそ二人の仲を応援すらしなくなるのだから、やはり人徳なのかもしれない。

「もし今度孟隻様が戻られたら、必ず行き先を告げてから出かけてくださるようにお願いしてみようかしら?」

「!それは良い考えです!ね、殿!殿もそう思いますでしょ?」

パッと笑って手を打つ猫御前とは正反対に、ちらりとこちらを見るだけで相変わらず不満顔の殿。

「………そんなん、もう何十回も言ってみてんだよ」

「え?そうなんですか?」

「当然だろ。だが…アイツは全然聞きゃしねぇのさ」

恨みがましく口を尖らせるだなんて、まるで子供のようなことをする。
前は掴めない、大人びた気難しい人だと思っていたけれど。

「あら…でもきっと、私や猫ちゃんが言えば聞き入れてくださるに違いありませんわ」

「……?」

「だって孟隻様は、女人に滅法お優しいお方ですもの」

その証拠に、孟隻様は今まで自分としたどんな小さな約束事も違えたことはないと言えば、確かにと隣で声があがる。

「私も、破られたことなんて一度もありません!それに、」

「それに?」

「私が熱を出して寝込んだ時…たいそう心細いと思っていたんですけれど、孟隻さまがすぐにお見舞いに来てくださって…。それで、その後も一晩中ずっと側で手を握っていてくださいましたの」

「まあ…」

とても心強かったのだと、その時のことを思い出して嬉しそうに笑う。

幸せそうな彼女とは対照的に、驚いて…というよりも、愕然としたように固まった殿。
確かに自分たちと比べてしまうと、孟隻様の殿への態度はやや冷たく感じるだろう。

「…っ…オレは…、約束だってまともに取り付けられねぇってのに……」

ほんのり涙目になりかけてしまった殿を見て、猫御前が慌てて自分の口を押さえるがさすがにもう遅すぎる。
うつむいて、しゅんと肩を落とした殿。本当に、孟隻様も罪な方でいらっしゃる。
「もう、殿ったら…そんなことは恋人なら仕方ありませんわ」

「Ah…?」

「だってきっと、孟隻様が殿と約束をなさらないのは甘えていらっしゃるからですもの」

孟隻様の自分たちへの甘さと、殿への甘さは、おそらくきっと全く別の形だろうと思う。
約束をしないのもわざと行く先を告げていかないのも、きっと嫌われないとわかっているから、ちょっとだけ困らせているだけなのだ。

「その証拠に、孟隻様がそんな態度をとられるのは殿にだけでしょう?自信を持ってくださいまし」

力付けるようににっこりと笑って見せれば、しぶしぶ起き上がってこちらに向き直る。

「ほら、そんなお顔をなさらないで。ね?せっかくの男前が台無しですよ?」

「そ、そうですよ!孟隻さまは綺麗な方がお好きですもの!」

「…………」

むぅ、と何かを堪えるような疑うような不思議な顔で上目遣いにこちらを見上げる。
本当に…こんなに可愛らしい御方だったなんて、ついぞ気付かなかなったこと。

「……………本当に、アイツがそう思ってんのか?」

「もちろんです!だって孟隻さまも私たちと同じ女性ですもの!同じように考えていらっしゃるはずですよ!」

「………………」

殿…そこで疑わしそうにするのはいささか失礼かと。

「さぁさぁ、今回も忍の方に跡をつけさせていらっしゃるのでしょ?」

「…!」

殿が孟隻様の行方を知るために、いつもいつも忍に追いかけさせていることくらい私でも知っている。
そのくせ、殿が今まで一度もその情報を使わなかったことも。

「今日こそは追いかけて行かれなくては」

「早く追いついてくださいませね!」

そう言って背中を押せば、一瞬ためらいがあったものの、一言何かを呟いてすぐさま部屋を飛び出していく。


呟かれた言葉は南蛮語でわからなかったが、それが照れ隠しなのは十分にみてとれたから。



小部屋の中、二人で顔を見合わせて笑いあった。





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