おれさまダーリン
『…オレはアンタ以外のヤツと一緒になるからな!』
前を歩く孟隻。その背中に向けて怒鳴るオレ。
別にこんな喧嘩したいわけじゃないって、思ってんのに…。
事の始まりは些細な口論。
いつも通り、散々ほっつき歩いて諸国をぶらつき回っていた孟隻が帰城したことがきっかけだった。
何度オレを置いていくなと頼んでも、孟隻は毎回笑うだけ。返事をくれた事はなく、約束を取り付けられたためしもない。
今回だって相変わらず全く悪びれないまま歩き去ろうとするから、つい思ってもいない事が口をついて出ちまってたんだよ。
『…っ…オレは武将だぞ、いずれは跡継ぎだって作らなけりゃならねぇんだ』
普段なら口になんかしないが、恐らくは側室だって設ける。だから孟隻と二人きりでいられる時間だって本当はそう多くない。それは多分ほぼ確定した事実。
言いかけた手前、後に退けなくなって続けたものの、今を十分大切にしたいと思ってんのは紛れもなくオレの本心で。
『オレの相手がアンタでなきゃならねぇ理由なんかねぇんだからな!』
だってのに、肝心のアンタはまるでわかっちゃくれねぇし。こんなにオレが焦るのだって仕方ねぇだろ?
だから、たまには少しくらい慌ててみやがれ馬鹿孟隻。
そう、思ったのに。
「やめておけ」
『…は?』
「お前の子供の一人や二人、私が産んでやる」
やっと立ち止まった孟隻は鼻で笑ってそう言いやがった。
身長差そのままに見下ろす眼は、言葉通りまるで本気にしちゃいない。
それどころか、いっそ問答すら面倒だと言いたげに、つまらなそうに肩をすくめて見せるんだ。
「そんな馬鹿らしい話なんざ適当にして、坊やは大人しく私を追いかけてろ」
『なっ…』
「例え私が浮気をしてもお前は私以外に目をやるな」
『…んだそりゃ!?ふざけんなっ!』
冗談じゃないと睨み上げてそう叫ぶ。
…睨み上げて、不満を表したはずなのに。
「私以上に坊やを幸せにする者はいない。だから坊やは余所見なんかせず私だけを見てれば良いのさ」
…たった今、今の今までまるで気が乗らないような顔で見ていたくせに、急にそんな顔で笑うなんざ反則だろ。
自信たっぷりで無駄に不敵なアンタのその顔、オレが一番弱いって知っててやってんのかよ。
…てか、やっぱ知ってんだろうな。抜け目ないアンタのことだから。
アンタそういうところ狡いよな。そんな顔でそんな殺し文句を言われたら、もう逆らいようがないだろうが。全部計算ずくのくせに、やっぱり格好良いとか最悪だろ。
…だけどな、
『……、…だったらその言葉、そっくりそのままアンタに返すぜ』
「何?」
『オレ以上にアンタを愛してる男なんざこの世にいねぇ。それで目移り何かしたらアンタ、わかってんだろうな?』
睨み付けたまま無理矢理余裕ぶって見せる。こんなのは領主として慣れっこだけどな、孟隻相手にやる時はいつだって見透かされてる気がしてならねぇよ。
今だってチラリと上がる片眉に、オレの緊張まで無意味にはね上がんだから隠すのは本当に一苦労なんだぜ。
「……言ったな?」
『応』
「その言葉、取り消しは効かないぞ」
『アンタこそ、金輪際忘れんなよ』
目の前でにやりと深く歪む口角。自分も同じように口の端が吊り上がっているのがわかる。
こんな後手々々で見惚れっぱなしで、今日も完全に孟隻のペースで。
「それでこそ、私のDarling。愛してやるぞ政宗」
それでも腕を引かれて腰を抱かれれば、愉しそうにギラつく目が漸く真正面からオレを捉えたのがわかる。
『Ha?そいつはオレのセリフだろ?』
射殺されそうな両の眼に、自分が写っているだけで震えが来るほど嬉しいなんざ、オレはもうイカれてるとしか思えない。
オレはコイツが大人しく守られるくらいの男になりてぇってのに、まったくザマぁねぇんだよ。
それでも
それでもほんの少しの意地と本音で、アンタを側に置けるなら。
『二度と逃がさねぇぜ Honey?』
その堅い身体を軋むほど強く抱き締めて口付ける。
アンタもアンタの視線も何もかも全部、オレのだ。絶対離してなんかやらねぇから、きっちり覚悟しとけよな!
このお話は屋形さまにお捧げしております。
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