恋愛五ヶ条





『…なんだこりゃ?』


珍しく机に向かっている政宗。
それも朝から気も散らさず、ひどく真面目な顔をしてやっている。

ならば褒美がてら休憩にでも誘ってやろうかと思ったのだ。

しかしひょいと覗き込んだ書面の上には、真っ赤な墨で【恋愛五ヶ条】の大文字が。


「昨日風来坊が置いてった」


面白そうだからやっているのだと、そう悪びれもせず言ってのける。
これじゃあ一日上機嫌でいた分だけ、小十郎はさぞかし立派な角を生やすだろうよ。



…とは言えまあ、確かに面白そうだ。

小十郎に見つかる前にさっさとやってしまおうじゃないか。





* * * * *






【その一。出掛ける時は行き先を伝えること!】


『童児じゃあるまいし…』


既に三つ目まで埋まっているらしい紙を確認すれば、一つ目からこの内容か。


「お前がすぐ居なくなるから悪ぃんだろうが。毎回毎回オレがどれだけ探してると思ってんだ」

『そんなに探しているのか?』

「Of course.放っておくとお前、全然帰って来ねぇじゃねぇか」

『坊やが素直に寂しいと言えたらすぐにでも帰ってやるぞ?』

「Ha!言ってろ」





【その二。恋人を最優先にすること!】


『…してるだろう』

「No!義弟だ真田だ元親だって言っちゃあ出掛けちまうじゃねぇか!」

『(あぁ…まあ、否定は出来ない…な。確かに出掛ける…)』

「……挙げ句に馬の世話なんかで明け方に布団から抜け出しやがって……次の日起きて一人とかあり得ねーだろ…!」

『…ん?何か言ったか?』

「言ってねーよ!とにかくこれからはオレが一番優先だからな!」





【その三。戦場では単独行動禁止!】


『お前だって単独行動だろうが』

「オレには小十郎がいる」

『なら私にだって遒烏がいる』

「遒烏は馬じゃねぇか」

『だがそこらの凡夫共より余程頼りになる』

「う……確かに…」

『大体私と遒烏が揃えば敗れる訳がない。いらん心配だ。まぁ、お前でも人質になっているなら別だがな』

「っ!?」

『私を心配がしたいなら、自分の心配をしてもらおう』

「〜〜〜〜っ!!…わかった。なら、これでどうだ…!」





【その四。戦場ではオレの側から離れないこと!】


「…これなら文句ねぇだろうが!」

『上出来だ。弾幕からでも守ってやるぞ坊や』

「…っいらねぇ世話だ!」

『どうした?顔が真っ赤だぞ?』

「Shut up!ニヤついてんじゃねーよ!」





* * * * *






勢いで増えたものも含め、出来た項目は計四ヶ条。
紙に並んだ文字を再度じっくり眺めてみれば。


『…何だか恋愛五ヶ条というより、ただのお前の要望じゃないかこれは?』


というか、どれも完全に私への不満だな。
とりあえずは大した不満がなくて良かったが。


「わかってんなら胸に手ェ当てて反省しろよ」

『反省は別に構わんが…私にも一条くらい決めさせろ』


言って、政宗の手から筆を抜く。
一瞬迷ったが、ふと思い付いて書き上げた。

埋まった穴に満足して、どうだと政宗に見せびらかせば。


「なっ!…バカだろお前!!?」

『失礼な』

「そうでもなきゃこんなこと書くわけねぇ………冗談か?」

『私はいたって本気だ』


最悪だと天を仰ぐ政宗だが、私はそんな無理難題を言っている訳じゃない。

むしろ、非常に簡単な事だ。
ほんの一瞬で終わるくらいにな。


『愛しているぞ政宗。これが守れたら、お前が飽くほど構ってやる』

「…Shutup!オレは絶対に言わねぇからな!」


そんな真っ赤な顔で睨んでも迫力なんぞありゃしない。どうしたって可愛いだけなのだが。


それよりも、陥落を待つのも楽しみの一つだと教えたら、照れ屋なお前はどんな風に怒るのかね。















【その五。一日一回、私を好きと言う事】







〜〜〜〜〜〜〜
その後政宗が「好き」って言うのが構ってのサインになればいいと思います。

タイトルは「恋じゃない、愛なの」様よりお借りしました。





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