謁見





「お待たせ…話、ついたから」

戻ってきた相手がそう言った様子が若干疲れていたのは何故だ。

まあ確かに不審者を謁見するなど、君主を説得するには面倒な部類の話かもしれないが。

それよりも、今は待たされた間に見た光景の方が気になる。
何しろ、ついさっき赤い男が城壁を越え、森の方まで飛んでいったのだ。私でなくとも何事かと思うんじゃないか。

何事かと聞いてみたい所だが…こんな時、言葉が通じないというのは不便なものだな。気軽に尋ねることもできないとは。

だが、前を行く相手は落ち着き払っているから、さっきの異常は知らないのかもしれん。
聞いたところで、こんな話は信じては貰えないかもな。



そう勝手に納得し、促されるまま歩く廊下。
木製の床はやけに柔らかくて不思議な感覚だ。どうしてもと言われて履き物を脱いだが、正直、落ち着かん。

「ここ。頼むから変な真似なんかしないでくれよ?面倒はごめんだからな?」

前を行く子供がくるりと振り返り、そう念を押してきた。
頼むも何も、暴れるつもりなら端から履き物も脱ぎはしないというのに。
頷いても、暫くは不満げに睨まれるのだから理不尽だろう。

勝手な奴だと思いつつ、とりあえず大人しく笑っておけば、子供はぺたりと床に座り込む。

「失礼します」

何事かと思っていると、いとも軽そうに衝立…と思ったがこういう戸か。
滑らかに動いたそれの向こう、室の奥に見えたのは、多少ではびくともしそうにない真っ赤な男。そこに居るだけでも圧されるような風格からして、間違いなくこの国の領主だろう。

「例の男を連れてきました」

小僧の言葉に鷹揚に頷く赤い領主。

その態度を見、この国はなかなか当たりだったのかもしれないと思い直した。





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