見つめる





突き付けられた小刀、それは確かに自分の物だ。

何故か随分と使い込まれた様子ではあったが、柄についた指型は大きさからして自分のものであると疑いようもない。

だから、それについては置いておこう。
そんなことよりも、今はもっと重要なことがある。


『私が武器を交換?見ず知らずのお前とか?下手な嘘だ』

「嘘じゃねぇ!…、…見ず知らずでもねぇんだよ…」


私が覚えていないだけだと言う。縋るような目は、成る程演技とは思えない必死さだ。

だが、追い詰められれば人は何でも出来るものだ。


『なら私の字を知っているか』

「孟隻…姓名は董夷だろ」

『馬の名前は?』

「遒烏」


義弟も母も主上の名さえ、淀みなくスラスラと答える。
…よく調べてあるものだ。とっくに亡くなった母上の名まで突き止めるとは、敵軍も余程必死らしいな。

だが、私から軍を崩そうなど、まったく侮られたものだ。


『では、私が殺した友の名を知っているか』


一瞬息を飲んだように見えたが、男はすぐさま、はっきりと先を続ける。


「仁諸…友じゃなく、本当はアンタの恋人だったんだろ」


眉をしかめ、呟くように。
…答えに自信がない訳ではなさそうだが、どうしてそんな答え方をするのか。


『成る程…とりあえずお前は信用の出来る相手らしい』


問いの正確な答えを知っているのは、私と私が最も信を置く者達だけ。だからこの問いに限り、答えがあってさえいれば一応は信用することにしている。
例え私の知らない相手であってもだ。

目の前の武将に答えを教えたのは霍嵩か、あるいは恵か。
どちらにせよ、何の都合でこいつを寄越したのか。


『誰に聞いた?』


それはそのまま、用件を尋ねたつもりだった。

しかし返ってきた答えは私の予想からかなり外れたもので。


「…アンタだよ」

『なに…?』

「アンタから直接聞いたんだ。仁諸は、唯一遒烏の秘密も知ってる相手だったんだろ」


それこそ、自分のほか誰も知らない事柄で。



…信用すると決めた相手だが、これは本当に…話を聞かねばならないかもな。





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