祈る
じっと、訝しげにこちらを見る。
懐に手を入れれば警戒されたが、構わず目的の物を取り出した。
革の鞘に入っただけの重たい短刀。千年以上も昔の武器では、おそらく硬さも切れ味も自分の物とは比較にならない粗さだろう。
しかし指の形に磨り減った柄を見れば、それが使い込まれた品だということは一目瞭然で。抜けばきっと完璧な手入れの跡があるにちがいない。
『アンタが、もう必要ねぇっつったから…オレの刀と換えたんだろ…』
刀を突きつけるように伸ばした腕。
体を動かしたせいか、刃の当たる首が痛かった。
だがそれ以上に、胸が痛くて仕方ない。
二度と使わないと言ったのは、こういうことだったのかと初めて気付く。
拷問用の刀だったから、こちらの世界ではもう使わないと言ったのか。
そういう使い方をしていたから、あんなに交換するのを拒んだのか。
それでも取り換えてくれた時、アンタはどんな気持ちだったのか。
少なくともあの時は、オレと同じように喜んでくれていたのだと思っていたのに。
どうしてアンタは何も覚えてないんだよ。
酷ぇよ。
早く、オレを思い出して。
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