擦れ違う
がつりと。
突如耳のそばで音が。
同時に、首を中心に打ち付けられる衝撃。
『がっ…!』
「どうだ?私の戟は便利だろう」
特別仕様なのだと笑う。
首をすっぽりと囲った刃に、まるで身動きがとれなくなる。気付けば、あっという間に木に縫い止められてしまった。
…受け身を取る隙さえなく。それどころか、オレには孟隻が動いた素振りすら見えなかった。
これが孟隻の本当の実力なのかと思えば知らず奥歯を噛み締めていた。
稽古の時は、随分と加減をしていやがったらしい。
「真っ当な武将と違い、私は諜報も行うからな。固定しやすいこの形が良いのだ」
じりじりと徐々に刃は幹に埋まり、首周りの空間は減っていく。お前の首は細いなと嘲笑するような声が浴びせられ、思わず頬が熱くなる。
お前がオレを突き放したことなんざ、今まで一度だってなかったのに。
「私は荒っぽくてな…素直に答えないのなら、お前が失うのは指ではなく腕だぞ」
同じ一本でも大した違いだ。
わかるだろうと問う声が冷たくて、首に当たる刃よりも深く刺さるようで。
本気でオレを殺せる目だったから。
「怖いか坊や。なら大人しく答える事だ」
無骨でも優しかった手は、今は乱暴に自分の頭を押さえつけている。
覗き込むように合わせらた目には、やはりあの暖かさは見つからなかった。
…本当に、お前はオレを忘れちまったのか。
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