篭絡
「うちの軍にこない?」
聞いた時はおやと思ったが、言われてみれば確かに納得だ。戦闘力のある若者との人気のない森での遭遇、相手が軍に属していない方がおかしいか。
恐らくは警備の兵なのだろう。
【(…しかしな)】
この地の情勢もわからないまま国を選ぶのもどうかというものだ。目の前にいる男が優れていようがいまいが、君主が有能とは限らない。
個人の能力と国の優劣が比例しない事など乱世ではザラだ。
…と、そこまで考えてふと。
【(そういえば、国力を見て仕えたことなどなかったな…)】
過去にあるのは口約束で仕えたことだけ。まして唯一の主上は国も持たない間に惚れた方だ。国力など計ることも出来なかった。
【(まあ主上は特別だが)】
ただの小僧と比べる相手に選ぶのもおかしいか。
だがそれにしても、目の前の男はつくづく若い。浅い思索に浸る自分をなんと必死に見ているのか。
隠して隠しきれない未熟さが若さの象徴のようでなんとも愛しい。
確固たる目的さえなければ、私は基本的に弱者に甘いのだ。これでは頼みを聞いてやりたくなるじゃないか。
頷けば、僅かに相手の緊張が弛む。こうも明け透けではどうして殺す気になれようかね。
どの道情報収集は必要なのだ。これの軍で行っても悪くはあるまい。
ろくでもない軍ならばさっさと国から出れば良いだけの話だしな。
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