第二遭遇者
「ねぇ」
あまりの面倒事にすっかり志気の下がっていた私に、背後から警戒を含んだ声がかかる。
そう言えば、少し前から気配があったが、そいつまで姿を見せたのか。
全く…放って置いてくれて構わんのだがな。
「アンタ誰?ついでにその男返してくれない?」
…こうして相手の言葉は理解できると言うのに。
だが確かに私は自国の言葉しか話せない。伝わる訳がないと言えばそれまでか。
とりあえず呆けている足下の男を小突いて正気に戻す。顎で示せば、あっという間に消えた。
「どーも。で?アンタは誰なのさ?」
どうせ分かるとは思えんがな…。
【董夷】
「…へ?」
【姓を董、名を夷、字が孟隻】
本来ならば見ず知らずの相手に名など言わないが、聞き取れないなら構うものか。
「ちょっ…ちょっと待った!アンタそれしか喋れないわけ?」
少々慌てて尋ねてきた相手に向かい、何も言わずにただ頷く。
「…聞き取れはするんだ?」
頷く。開明獸の奴、どうせなら話せるようにもしてくれれば良かったものを。
実はあの裂け目の中で向き合っていたのは、鴻均道人という少々癖のある神と、開明獸という神獸だった。
その両者の思念が、あの裂け目から漏れ出ており、近寄った時その一部が理解できたのだ。
癖のあると言ったが、鴻均道人とは決して好ましい相手ではない。善人を嫌い悪人に媚びる道人だという。
その相手がどういった訳か、死後の私の魂に手を出した。悪人として好かれたのかどうかは知らないが、まあ余程暇だったのだろうさ。
戯れに爪で弾いたところ、海を超えて遠くこの地に蘇ってしまったらしい。
それを見かねた開明獸は、私に同情し、そのせいで言い争っていたようなのだ。
武器諸々があったのは、鴻均道人が本当に私に殺戮をさせたがったからで、言葉を解せるのは開明獸がしてくれたそうだ。
だが途中で私が触れたせいで、そういった全てはうやむやになってしまったのかも知れない。あれきり、両者どちらからの指令も下されてはいないからな。
もう少し待てば話せるようにもなったのだろうかとは思うが、今更仕方ない。
自力で覚えるとしよう。
言われている事はわかるのだから、そう難しい事はなかろうさ。
しかし、それにしても。
目の前の小僧はやけに殺気を向けてくれる。まさか私と戦いたいのだろうか。
警戒するのは偉いが、相手は選んだ方がいい。
【ひよっこは早々に帰れば良いものを…】
今の内に、大人しく仲間の元に戻るべきだぞ。
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