女王バチ5匹目





『…………』


目の前に叩頭する群集。

身じろぎの音一つしない広場。

傍らでにやけている外国人。


…異様だ。異様この上ない。

特に三番目。


「愛ニー不可能はありまセーン!ダッテ、この世のスベテは舜チャンとザビーのモノだもの〜?」


いや、一つ目も二つ目も十分すぎるくらい異様だけど(むしろ異様度合いでいったら完璧上回ってるけど)、三番目のが一番ムカつく。
つか、俺の側にコイツがいるのを認めたくない?精神が拒否するっていうの?

だからコイツの存在がもはや異様。

俺の中で異様。異様MAX。MAX異様。


「アレレー??舜チャンご機嫌ナナメですカー?」


…本当、俺の神経をこれでもか!っつーくらい上手いこと逆撫でしてくれやがるわ。

名前の呼び方がだんだん親しい感じになってきてんだけど、わざとか?わざとなのか?わざとなんだな?


「どうシマシタ?ザビーたちとってもスピーディーに勝ったヨ?タクティシャンもこころよ〜く入信してくれマシタヨ?」


あ、そういえば見慣れない人が。
さっき遠目に見た緑の大将っぽいけど、あってんのかな。
ザビーがでかすぎて後ろに居るの見えなかった。
というより、できる限りザビーを視界に入れないようにしてたから気づかなかったんですけど。


『(…なんか、ちゃんと見ると、すごい美人だなあ…男だけど)』


思わずがっつり見てしまった。ずいぶん細いが、よくこれであのバズーカと戦ってたな。

それにしても、こんなアホ教団に負けるなんて、さぞかし不本意だったろうに…なんて不憫な。


「…!!」


『(あ…目があった)』


と思ったら逸らされた。

だよねー。俺がこの教団の元締め(はなはだ認めたくないが!)だもんね。

そりゃあ誰だって目なんか合わせたくないよね。
俺だって当事者でなけりゃ、全力で知らん顔するわ。


「オーー!!ダメダヨ、タクティシャン!舜チャンに失礼デショ!?」


いやいや、信仰対象にちゃん付けのお前の方が失礼だから。


「……すまない、わざとではないのだ」


眉を寄せてうつむく緑(仮)はどう考えても被害者でしょう。全てにおいて。


『…良い(というか変なことに巻き込んでごめん。心からごめん)』


「…舜様…」


顔を上げた緑(仮)と今度こそばっちり視線が合う。

あー…本当に綺麗な顔してんなぁ…。

ザビーの後で見ると目の保養というか消毒というか…なんかもう、癒やし?
回復薬に近いね。


『………』


「舜チャン?」


…俺、ちょっといいこと思いついた。

てかこれすごいいいアイデアなんじゃね?

まずは聞くこと聞いとかないといけません。


『……(あ、まだ名前きいてねぇや。ま…見ながら言えば伝わるだろ)……どこに行く?』


「…は…?」


不思議そうにされてしまった。

いやさ、捕虜?入信しちゃったんだっけ?…まあ、どっちにしろ戦わなくなったんですよね?

だから俺としては、是非とも君の今度の身の振り方を知りたいわけですよ。


『先の事だ』


あわよくばザビーと離れたいの!俺は!!

だからこの人にも城とかあるなら、俺をあの魔の城から保護してほしいのさ。

それが無理なら、せめて一緒にあの魔城に来て、俺の側で目の保養になってください。


「……!…それは、我には知り得ませぬ…」


あー…確かに負けた側だもんねー。
もしかして酷なことを聞いたのかも。

困らせてしまったようで、しゅんとしてまた俯いてしまった。

ごめんな、次からは気をつけますから。

もう聞かないからさ?


『なら…側にいろよ』


むしろ居てください。せめてそのくらいのワガママは言ってもいいと思う。

なんたって信仰対象ですから(ヤケクソ)


「!…良いの、ですか…!?」


頷く。

てか、それはこっちのセリフですけど。


「舜チャンのトクベツ!愛のレッスンダネ!?うらやまシー!!ザビーもしてほしいヨ!」


『(え、違……何その言い回し…俺変態みたいじゃん!)…居るだけだ』


会話に入ってくんなザビー!


「…貴方様……舜様が…お許しくださるなら、是非に…!」


あ、ちょっと目がキラキラしてる。
なんか可愛いかも…

交渉は成立したし、この人も嬉しそうだし、万々歳ですね。




………。




こんな普通そうな人にまでナチュラルに敬語使われてるよ、自分…


ああ、本当に信仰されてんだな…ハハ…



もーー!!ザビーこの野郎!!!

なんつーことをしてくれやがったんだよ!!!





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