佐助の場合





『(…ど、どうしよう…)』


目の前に広がるのは自国の森。

そして腕の中には、じっとこちらを見上げている子ども。

どうしてこんな事になったのかは自分でもよくわからない。
ただ気付けば攫っていたというだけで。


『(だって…この子共、あの人そっくりなんだぜ…?)』


内心で、自分に問い掛けるようにもう一度始まりを思い返す。

いつものように忍んで会いに行った部屋。いつものように何も言わず自分を迎えてくれるはずのあの人は居らず、いたのはこのやけに威圧感のある子どもだけ。

いや、髪の色から目鼻立ちまであの人に瓜二つな子ども、だ。

驚いたのまでは覚えている。ただ、そこから先の記憶が少し曖昧なのはおそらく無我夢中だったからだろう。
走り続けて自領について、ようやく冷静になったくらいなんだし。


『(……それにしても)』


やってしまったことを不思議がっていても仕方がない。それよりは少しでも現状を好転させるべきだろう。

そう思って手の中の子どもを窺ったのだが。


『(………動じないコだねぇ…)』


突然浚われたってのに泣きもしなけりゃ騒ぎもしない。それどころか驚いた様子すらほとんどないのだ。どうしたってあの人を彷彿とさせるじゃないか。


『(でも、俺様あの人の名前も知らないし?確かめようがないんだよねぇ…)』


見たところ子どもの方にも自分を知っていそうな様子はない。これはいよいよ難しくなってきたと考えた矢先。


「はら」


しっかりと自分を見ながら更に続けて。


「へった」


『………へ?』


そう言い切ってじっと見上げてくる。

…誘拐されて平然と食事を要求する子どもなんてのは、いくら世界広しと言えども二人といないじゃあなかろうか。





*****





『…おいしい?』


そう聞けばこくりと頷く。片手に持った団子を着々と口に運んでいるので、多分これで正解だったのだろう。
腹がへったと言われた時、とっさに自分の主用の選択をしてしまったが、結果的には良かったらしい。

しかし若虎御用達の店でこの子どもが選んだのは、緑も鮮やかなずんだ餡の串団子。みたらしや小豆餡があるなかで、なかなか珍しい好みだと思ったのは素直な疑問だ。


『ずんだ好きなの?』


頷く。


『なんで?おいしい?』


「みどりだから」


『……へ?』


…味を聞いたつもりだったが、子どもの好みはわからない。まさか色で選んでいたとは。

しかも即答かよ。


『緑好きなんだ?…じゃあ俺様のことも好き?』


「…………」


頷……かない。

いやぁ、そこは頷いてほしかったなぁー。
そんなに好きならと思ったのにさ。
目線は正面のままだし。そんな反応だといくら俺様でも傷ついちゃうよ?

そう思いながら更に聞く。


『なんでさ?俺様も緑じゃない?』


そしたらちらっとこっちを見てから、再度視線を外して言った。


「…みどりはもとなりだ」


ああ…なるほどね……納得。

言ってすぐまたもくもくと串に残る最後の団子をかじる。その横顔を眺めながら、ちびりと熱い茶を啜る。

確かにあの人は緑だよな。うん。
間違いなく緑だよ。


でもちょっと妬けるなー…というか、悔しい?
だって遠まわしに、つか結構直球で毛利が好きだって言ってるようなもんだろ。

納得いかないよねぇー…。
この子を独り占めなんてずるいでしょ。
いくら一国の主でもこればっかりは譲れないっての。


『でも俺様も緑だから、俺様のことも好きになってよ』


ね?と笑いかけてみれば、なんだか顔をしかめられた。
俺様そんな難しいこと言ったっけ?


「…おまえ知らない」


あ…そういえば自己紹介もしてないわ。
不審者だよねぇ俺様。そりゃ難しいか。

ま、その不審者と団子食ってるこの子も相当変だけど。
あんまり平然としてるから初対面だってすっかり忘れてたよ。


『…教えたら好きになってくれる?』


「…………」


おぉー、頷いた!
こりゃ、教えるしかないでしょ。

…けど本名は…まずいよなぁ。いくら子どもでもさすがに……ねぇ?
ましてやこんな不思議なコだし。

でもこんな好機に教えないなんて有り得ないし…。

なんて、考える間もじっと見上げてくる子どもに柄にもなくドキドキしてる。

マズいねこりゃあ。ハマりそう。
もしかして選択肢、一つしかない?


『俺様の名前はね……天狐って言うんだよ』


結局名乗った偽名は例のあれ。迷って考えた挙げ句がこれって、ちょっと俺様仕事し過ぎちゃってない?

…まぁ、ちょっとどうかとも思ったけどさ。名乗らないよりはいいでしょ、多分。


「てんこ」


…うん。名乗って良かった。

可愛い発音で呼んでくれちゃって。
試すみたいに呟く声がなんとも言えない。

にやける顔を隠すように湯呑みに口をつけてみる。本当は中身なんてあと一口分あるかないかなんだけどさ。


「てんこ」


『ん?なに?』


呼ばれる声ににやけながら振り向けば、


「俺も」


ぐいと差し出される湯呑みと、凶悪なまでの上目遣い。当然おかわりが差し出されると思っている自信にくらりと来る。


…本当、もう本名教えて持って帰っちゃおうかな。






佐助with子舜。
佐助が名前知らないから今回は全然名前変換がないっていう。
本名も呼んでもらえないっていう…。

多分瀬戸内から九州くらいをいつものメンバーが大捜索中です。
甲斐は盲点なんです。





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