立場逆転勤労感謝





…発端は俺のため息でした。


〜回想〜


今日も俺は、いつも通り左側にお花ちゃん、右側に小太郎を座らせて、贅沢極まりない癒やしの一時を味わっていたのです。

ただ最近違うのは、この俺のベストプレイスに更に三人の美形が加わったこと。
俺に近い順に前から政宗さん元親さん片倉さん。

目の保養にはもってこいの光景ですがこの方々、いかんせん仲が悪いらしくて。
もちろんその括りには小太郎とお花ちゃんも入っていますよ?特にお花ちゃん・政宗・元親の間には顕著なものがあって、そこに片倉さんが政宗寄り、小太郎はお花ちゃん寄り…みたいな雰囲気がプラスされてるっぽいです。
あくまで俺の見た感じですが。

まぁやっぱり人数が増えると色々大変ですよね、ってな感想は置いといて。

そんな風にちょっぴり複雑になってきた俺のまわりの人間関係、目に見える喧嘩も出てきました。今のところ小競り合いの範囲ですけども。

しかし今日も今日とて眼前で繰り広げられる政宗と元親の小突き合い。
あんまりにあんまりな頻度の高さに、流石の俺もどうにかした方が良いのかと悩んだりしていたのです。
そのせいか無意識のうちに小さなため息が漏れていたりもしたらしく…。

その瞬間。


「…!テメェのせいで香月に呆れられたじゃねぇか!!」


そう言って政宗が目にも止まらない早さで元親を突き飛ばしたのです!
突然のことに元親もなすすべがなく。しかも結構強く押されたのか、もともとのドジっ子っぷりが手伝ったのか、元親は俺めがけて一直線。

そして運悪くその時俺は淹れたてのお茶を持っていたのですよ!

慌てたのは近くにいた元就と小太郎。
二人して動いたと思ったら、元就は倒れかけている元親を横から突き飛ばして進行方向を変え、小太郎は素早く俺の手から湯呑みを取り上げる。図ったみたいな連携プレー。
わお。ナイスコンビネーション。息ぴったり。それにして元親の可哀想な扱いには涙が…。

とは言えそれはいつも通りと言えばいつも通り。つまりそこまでは良いのです。

しかし話はそれで終わらなかったんですよ。

勢い余ったのか何なのか、小太郎が取り上げた湯呑みを握りつぶしたからさあ大変。ほとんど熱湯に近いお茶と陶器の破片が小太郎の右手を直撃。

当然小太郎は手に傷と火傷を負ってしまったわけなんです…。


…以上、回想終了。


俺のため息で始まってしまったこれまでの話は長い長い回想。あくまで前置きです。


本題はここから。


今、俺たちは風呂場にいます。


※俺たち=俺+小太郎


…………………。


…怪我してる間くらい俺一人で入ると言ったんですけどね?なぜかこの子、頑として聞き入れてくれないのですよ。

俺風呂くらい一人で入れますよ?と言うかもともと一人で入ってたんですが。

しかし結局中まで入られてしまい、今に至るわけですけども、むしろ俺には風呂場で起こり得る(と小太郎が心配している)問題の方がわかりません…!


『…小太郎』


「………(フルフル)」


ごしごしタオルの受け渡しを要求しましたが、拒否されてしまいました。普段は素直なのに!
おまけに俺の頼み通り包帯を巻いている右手は使わずに強行されてしまっては、俺には怒る事もできません。

うぅ…小太郎は両利きのようです…。

なんてこった…、結局何一つさせてもらえないまま、いつも通り体を洗ってもらってしまいました。


…………。

でも!こうなっては俺も引けません!
なんとしても立場を逆転させて俺が小太郎の心配をしてみせます!


『小太郎』


「……?」


きちんと片付けられたお風呂道具を小太郎の腕から回収。不思議そうに首を傾げているのが確認できます。
そのまま俺は手桶を掴んで中のごしごしタオルを(やっと)ゲット。


『俺が洗う』


「!!!」


…逃がすか!!
天井に消えそうになる小太郎の腕を掴んで逃亡を阻止!びっくりし過ぎてちょっぴり挙動不審になってるよ小太郎!


『服、脱いで…(うわ…なんかめっちゃパワハラでセクハラ!?違うよ!?違うからね小太郎!!!でもごめん!)…命令(俺すごい職権乱用してる!!)』


「…………………」


まっすぐ目線が合ったままで音が鳴りそうなほど固まる小太郎。
今までの恩を丸ごと仇で返した気分です。

…いや実際返してるのかもですけど。


「……………………」


それにしても…すごい固まりっぷり。
本当はロボットで、急に電源落ちたんじゃないかってくらい微動だにしないんですが。
『………』


「…………………」


『…………』


「………………………」


『……………』


「……………………………」


なんか…、めちゃめちゃ気の毒な感じなんですけど。
よく見ればちょっと青ざめてるようにも見えるような、冷や汗がでているような…。


『(あの……その…うん、ごめん。そんな追い詰める気は全然なくってね?)……背中だけ(背中流すだけでもいいんだけど……)嫌か?』


そんなに他人に洗われるの嫌?てかそうなるといつも人に洗ってもらってる俺はどうしたら?


「……………(フルフル)」


『良かった』


「!!……?」


首を傾げる(ようやく動いてくれた)小太郎にほっとしつつ、再度服を脱いでくれるように示します。


『小太郎に嫌がられなくて良かった』


「!!!」


いや、いろんな意味で。引かれたり嫌われたり引かれたり引かれたりとかしなくて良かった。本当に。


『後ろ向いて』


「………(モジモジ)」


脱ぐのにはあんまり躊躇いがないらしい小太郎。スパッと裸になってくれました。
しかし後ろを向いて待っている姿はやけに照れていらっしゃる。緊張してるのかやけに力が入ってるのが新鮮です。

…可愛い。
なんか初々しくて微笑ましいかも。たまにはこういうのも良いんじゃないでしょうか。


そうでなくともちょっと赤くなった小太郎に俺の目線は釘付けです。タオルを泡立てながらかなりチラ見しております。

だってすっごい綺麗に筋肉ついてるし本当モデルみたいなんですよ?そりゃ見るって。見ちゃいますって。


『痛いか?』


「……!(ブンブン)」


反応を見つつ、俺は順調に白い背中を流していきます。本当は髪とかも洗ってみたかったけど、とりあえず今回は背中だけということで。
何より本人のテンパりっぷりがものすごいので。

しかしこうやって少しずつ慣れてもらって、いつか俺がしてもらってることと同じことをしてみせます!いつか!


…なんて目論みながら、大満足で一日を締めくくった香月舜でした。えへ。



P.S.
傷はあったものの、小太郎の肌はすべすべでした。





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