The empress.





おはようございます香月です。

爽やかな朝の目覚めです。


…起きあがってしまわなければ。


たった今味わってしまったばかりの起き上がった瞬間の違和感たるや、…もはや筆舌に尽くせません。

ちょっと重たい腰まわり。
全体的に感じるパワー不足。
そしてなにより胸にある不自然な重み…。

……………。

恐る恐る目線を下げてみれば。


『……!!!??』


豊かな二つのふくらみに愕然と口が開きます。思わず反射的に伸びた手に当たる柔らかな感触は良いとして、触られた胸の方からも“触られてる”感じがあるとはこれいかに。

…いやいやいやいやいやいや、マズいでしょ。これは本当にマズいでしょ!?


俺の体が俺のじゃない!!!!


視界に入るのはメリハリきいたナイスバディ(死語)。男だったら釘付けになるような超然プロポーション。黄金比ですかと聞きたくなるくらいの完璧なバランス。思わず抱きしめたくなるかもしれません。


それが自分の体じゃなかったらね!!!


『(…なんじゃこりゃ〜〜!!?いじめか!?いじめなのか!?俺天帝さまに怒られるようなこと何かした!?)』


とはいえこれといった心当たりなんかないけど、細かいことになればキリがないくらい無礼はあった気もします。


どうしたものかと頭の中が最高に空転し始めた頃、いつもの時間になったのか音もなく目の前に小太郎が現れて…消えました。

あれ?どうしたの?…なんて言うまでもないですよね。俺の変わりように戸惑って混乱したんですよね。

俺も逃避したいですとも…。でも今の反応で逆に諦めが強くなってきたよ。
自分より小太郎の方が焦ってるっぽいし。

あ、戻ってきた。


「!?、!!…!?」


うんごめん、理由は俺にもわかんないよ。つかまだ大分混乱してるみたいですね。髪にクモの巣ついてるよ。

うーん珍しい。小太郎がここまで焦ってるのはかなり珍しいですよ。なんか変に得した気分になるくらいには。


でもさすがに気の毒なくらいの反応です。
しかも長い。


『(そんなに)気にするな(なんか俺の方が申し訳ないからね)』


「!…………。(コクリ)」


おお。納得早い。急に正座した。

切り替えが早くて大変素晴らしいと思いますよ。


「舜、起きているか?」


…まさか!この声はお花ちゃん!
一難去ってまた一難!!?

ああ!その障子を開けないで!
ちょっとで良いから待ってくださいっ!!


「失礼する」


ちょっ…だめだって!!


「おはよ…う……!?」


ああ!固まってるよお花ちゃん!!想定の範囲内だけどね!!


「元就」


「…は、……あの、舜様…?…え…?只今女物の着物を用意させますか…?」


うん。君も見事に混乱しているね。
焦りで口調も敬語に戻ってるしね。
しかしそれを咎められないくらいの衝撃状況ではあるよね!
俺だって本当は泣きたいよ!


『落ち着け』


「…!申し訳ありません!」


つかさっきから俺の声なんだけどいつもの声よりちょっと高くて微妙に気持ち悪いです。
なんかぞわぞわする…。

しかしお花ちゃんが来たということは、残りの三人が来るのも時間の問題か…?


「「香月!!」」


ほら来た!はっきりと遠くから複数の足音が向かって来るのが聞こえ始めましたよ。
どれだけ時間に正確なんですかあなた方。体内時計は原子時計ですか。

聞こえた声は政宗と元親。政宗がいれば当然側には片倉さんもいるわけで。
これで結局フルメンバーの勢揃いですよ。

とは言え俺にはもう打てる手だてもありません。
もはや諦めの境地です。

ええ。もうたんと会おうじゃありませんか。


「…ハッ!駄目だ!貴様らはこの部屋に入るでない!!」


しかしそんな投げやりな覚悟を決めた俺の前で、急に混乱から立ち直ったお花ちゃんが立ち上がりました。

半開きで外から部屋を覗いていた状態からすぐに機敏な動きで障子を閉め、その前で仁王立つ姿が影で見えています。


「どけ毛利。テメェに構ってる暇はねーんだよ」


「ならん。今日は諦めて引き返すが良い」


声だけのやりとりが障子の向こうから聞こえてきます。


「別にあいさつするくれぇ良いじゃねぇか。いつもしてんだし」


「黙れ。…舜様はお身体の具合が優れんのだ。貴様らが押しかけては治るものも治らん」


ナイス言い訳元就!
でも多分それじゃ政宗たちは引き下がらないよ!!

「なに!?ならオレが看病するぜ!!」


「いらん!看病なら風魔がしておる」


「病気には栄養が一番だ。俺の特製野菜料理を…」


「農民かぶれは引っ込んでいろ」


「だったらなおさら見舞いてぇよ!!香月に何かあったら俺…!」


「帰れ!」


…こんな調子で元就に切られても切られても三人はしぶとく障子の前で粘り続けています。
部屋の中では俺と小太郎が拳を握って(心の中で)元就を絶賛応援中。

頑張って俺のお花ちゃん…!!
これ以上の面倒なんて俺は嫌なんです!


「…これじゃ埒が開かねぇな。小十郎」


「は」


「なっ!?やめろ貴様ら!ふざけた真似を…!」


しかし鉄壁を誇った元就のガードも、腕力に訴えられては敵いません。しかも片倉さんと元親の屈強コンビでは華奢なお花ちゃんでは相手にもならないわけです。

障子越しのシルエットでも元就が捕獲された様子がよくわかりました。

もはやこれまでかと覚悟を決めると同時にスパンと障子が開かれて。


「………!!!??」


障子の向こうに立ちすくむ政宗。いくらか距離がある為か認識にはちょっと時間がかかったっぽいですが、だからって分からなかった訳じゃないようです。
なにしろこの隠しようのない胸が見えてるわけですからね!


「………香月…か?」


ええそうですよ。もう疑えないくらい確かな事実ですよ残念ながら。


「Oh…Venus…」


無言を肯定と取ったのか、政宗は頬を染めながらそう呟いて固まりました。
その入り口を塞いでいる政宗の横から、お花ちゃんを抱えたままの二人が覗いて、


「…!!!??」


「「!!?」」


…元親が鼻血を大噴射。間近にいた小十郎と元就はむしろそっちに度肝を抜かれた感じです。前にいた政宗は後頭部からそれをまともにくらってプチホラーな姿に。
俺と小太郎はもうただただ呆然ですよ。
もう何もかもにびっくりですよ。


「政宗様!?」


「…いや、大丈夫だ。狼狽えるな小十郎」


おお〜(?)さすが一国の主。落ち着いていますね。鼻血まみれでも冷静だ。


「こんなことくれぇでいちいち反応してたらとても香月の婿は務まらねーよ」


訂正。全然冷静じゃないみたいですね。
頭が大変混乱なさっているようです。
あるいは回路の構造に異常があるのではないかと疑いたくなるような回答です。


「なるほど。しかしその言葉には賛同しかねますな」


よく言ってくれました片倉さん!政宗の暴走を止められるのは貴方だけですから!


「いくら政宗様とは言え、香月様の婿の座は譲れません」


…はい?


「この小十郎、香月様の事にかけては例え相手が誰であれ遅れをとる気はありませんぞ」


視界が暗転したかと思いましたよ。
本当に俺の聞き間違いじゃないんですか?


「…OK.小十郎も本気ってわけか。相手にとって不足はねぇぜ!!」


睨み合って不敵に笑いあう伊達主従。
……片倉さん…貴方だけは良識ある素敵な大人だと思ったのに…。


「香月!オレを婿に迎えてくれたら、もれなく奥州の領地がついてくるぜ?」


悩殺率100%(予想)のセクシーな笑顔は女の子に向けてくださいよ政宗さん。まあ今は俺も女の子ですけど。
しかしお殿様…そんな簡単に国をなげうっていいんですか?そもそも俺は領土拡大には興味がありませんからね。


「香月様。俺を選んでくださったなら、食事から内政、戦まで貴女にはなんの不自由もさせません」


女の子ならぐっときそうなお申し出ありがとうございます。確かに片倉さんの食事は美味しいですとも。しかし俺はこの城、現状になんの不満もございませんので。
というかむしろ片倉さんとずーっと一緒ってのはちょっぴり怖いというかなんというかムニャムニャ…。


「香月!オレと小十郎、どっちを……ぐぇ!!!」


ちょっ…お花ちゃん!!?
急に政宗の脇腹に鋭く突き刺さる元就の足に、こっちの方が焦るっていうか痛いっていうか…寒気が。


「阿呆共め!舜には既に我という婿がおる!貴様は鼻血でも拭いて奥州に帰れ!!」


あー。まあ確かに現状だけ見るとそうだよね。
俺ここで養われてるし。元就ここの君主だし。


「なっ…!政宗様!!てめぇ何しやがる!?」


「叶う可能性が皆無の希望を消してやったのだ!ありがたく思うが良いわ!」


「お…俺も香月の…!!」


「貴様はまず鼻血を止めろ!舜につくだろうが!!近付くでない!!部屋に踏み入るな!」


「…毛利……テメェ…!!ぶっ殺す…!」


「フン…よかろう。舜に近寄る虫を一掃する良い機会ぞ」


「おっと…その勝負、俺も参加させてもらうぜ」


「俺も…!!」


「「「貴様/てめぇは鼻血でも止めてろ」」」


両手で鼻を押さえて立ち上がる元親を蹴飛ばしつつ、手に手に武器をとって外に出て行くお三方。

どうやら庭に出るようです。こんな時でも俺の安全は気にかけてくれている所に愛を感じますな。

…なんだかどうしようもなく阿呆な理由で連れ立って行ったのには、気が付かなかったふりをするとして。


まあとりあえず、俺はその勝負を暇つぶし(失礼)にして今日の一日を過ごすことにしましょう。

だってなんだか変に落ち着いちゃって。


『小太郎』


「………(サッ)」


手伝ってもらいながら着替えた後、座ればすぐにお茶と茶菓子が。

小太郎はあの試合に参加しないんだなぁとか、姿が変わってもやっぱり小太郎は俺の世話をやいてくれて、むしろこの子が女の子ならめっちゃ良い奥さんになるのになぁなんて無断な事を思いながら。

隣りでいつものように一緒にお茶を飲んでいるわんこを横目で眺めていると、朝焦ったのがまるで嘘のようです。
だってよく考えると俺、男でも女でもやってる事もやられてることも全然違わないっぽいですし。


『(…俺、いつ男に戻れるんだろ?)』


お茶のおかわりを貰いながら、小太郎が戻してくれたらいいのになーなんて暢気に意味のない事を考えたりしました。





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