焼もち焼
政宗から元親は昔女の子の格好をしていたらしいという話を聞きました。
あの!厳つい!男らしい!兄貴の風格バリバリの元親が!!
信じられませんよね!?
俺は信じられません。
次の日それを元親に言ったら(※なぜか彼は飽きずに毎日四国からここに通っています。何故か。まあ同盟結んだから良いけど)、真っ赤になって怒りながら政宗のところに殴り込んで行っていました。
それくらい元親の中では黒歴史の話だったようです。
…しかーし!!
Q.今俺の手の中にある物とは一体なんでしょう?
A.それは花簪です。
…わお。俺めっちゃチャレンジャー。
えぇそうです。俺は元親にこれを着けてもらおうかと目論んでおります。
政宗と乱闘するくらいの話題をわざわざ蒸し返そうとしているわけですよ。
馬鹿ですね?愚かですね?
しかし人間とは好奇心には勝てない生き物なのですよ。尽きることのない飽くなき探求心こそがあらゆる文明と知識を積み上げてきたのです。
…なんて関係ない戯言はどうでもいいとして、まあとにかく一度この目で見てみたいわけで。
もちろんこの無謀すぎる企みに協力してくれたのは、前にも飴を用意してくれた素晴らしすぎる女中さんです。
あの伝説の忍者・風魔小太郎の目さえも盗める唯一のお方!今回簪を用意してくれたのも当然のごとく彼女ですとも。
なぜか彼女は毎回ノリノリかつやる気満々で協力してくれるのでございますよ!
ありがたい存在です本当に。
そして今、彼女は最後の仕上げとして正門から元親を案内してきてくれるところなんですね。
「舜!」
お、来たみたいですよ。
「…おはっ、おはよう!いい朝だな!」
うん、おはよう。相変わらず会う度真っ赤だね君は。そして毎回噛むしね。
でもまぁ今日は(今日も)さくっと話を進めたいので流しておこうと思います。
『元親』
「…!なんだ!?」
『手…出して』
入り口でまごついていた元親を呼び寄せて、こっそり持ち替えた花簪を出してもらった手の上に乗せます。
それを見た瞬間がっつり凝視して固まる元親。
…さて、どう出る元親どうなる俺!!
「………舜…?これ、どういう意味だ…?」
やばい?やばいですか!?
やっぱりこれは逃れられない地雷でしたか!?…いや!ここまで来たら男は度胸!!
とことんまで行っときましょう!
『お前に、着けてほしい』
ただちょこっとだけ見てみたいだけなんです!すぐ外してくれてかまわないし!
と、必死に心で訴えかけてみます。
「…!……舜が、そう言うなら」
よっしゃ!やっさしー元親!!
一回だけだからなと念を押してから、元親は渡した簪を着けてくれました。
おお…なんか違和感ないね。
元々派手な感じだから派手めな飾りも似合うっていうか、鏡も見ないで着けられるなんてやっぱり着け慣れてるっていうか……うん。全然ありですよ。
「………どうだ?」
若干恥ずかしそうな感じで聞いてくるから、普通に似合ってますと返そうとしたら。
「舜!!」
「『!!?』」
突然障子を開け放ってお花ちゃん登場。
当たった障子の音のものすごいこと!普段の比ではありませんよ。ちょっと建て付け良すぎませんか?
てか、あれ!?なんで!?今日は内緒の予定だったのに…?
「…!貴様、やはり舜をたぶらかすつもりであったのだな!?」
……お花ちゃん、それどういうことですか?
「…そりゃ一体なんのことだよ!?」
「その簪が何よりの証拠!タケに言われて来て見ればその通りであったわ!!」
ちなみに、おタケさんて人がさっき言ったスーパーでグレートでワンダホーな女中さんです。
おタケさん…なんで元就に?てか何を元就に言ったんだい?ちょっぴり嫌な予感もしますけど…。
あんまりにもあんまりすぎる言いがかりに驚いて固まった元親をスルーして、元就はまっすぐ俺の前に座る。
「舜…我に飽いたというのは本当なのか…?」
………………。
えぇっっ!!?
なにそのでたらめ!?
思った覚えもないんですけど!!!??思わず日本語の意味をものっすごい真剣に考えなおしちゃったじゃん!!
俺がお花ちゃんに飽きるとか有り得ないし!
飽きられるならものすごい納得だけどね!!
「今は女性のような華やかさを好まれている故、かつて姫若子だったこやつをお側に置く気らしいと聞きました…」
違うって!
ちょっとおタケさん、元就に何吹き込んでくれちゃってんの!?つか何がしたいんですかアナタは!??
「いずれは四国へ居を移すおつもりだとも…」
うーつーしーまーせーんー!!
俺はそんな恩知らずじゃないし、何よりお花ちゃんと離れる気なんかさらっさらありませんから!!!
「…舜が望むのであれば、我だって…我だって女装の一つや二つ、必ずや成功させてみせます!!!」
…はーいぃー!!?ちょっと待ってお花ちゃーん!!!なんすかその飛躍!?
しかも成功ってアナタ、策謀じゃないんだから!
もちろん涙目で決意するような元就は素晴らしく可愛いです。
可愛いですが!
話が大幅にずれたよ!
それはそんな悲痛そうな顔で言うセリフじゃないですから!
「努力して必ずやこやつより美しくなってみせます!…だから…、どうかもう少しだけでも、此処に…」
それ以上美しくなられると俺の心臓に悪いです…つかそんなに言われると脳みそが勝手にお花ちゃんの女装姿を想像してしまって鼻の血管が大ピンチ…じゃなくて!
そんな顔で縋ってこないでお花ちゃん!!
ただでさえアナタに弱いのにそんなタッチとか上目遣いとかその他諸々のオプションまで付けられたら俺のなけなしの理性が吹き飛んでしまうでしょ!?
俺がいらんこと考えて気を紛らわしてる間になんとかその涙だけでも引っ込めてください!!!頼むから!
アナタの為にも!!
しかし期待もむなしく元就は俺を見つめるばかり。当然です。俺の必死の訴えはあくまで心の中での叫びですから。
まあ、こんな声が通じてたとしたらそれはそれで(むしろそっちの方が)マズいわけで。
仕方なく俺は精一杯平静を保ちつつ、元就を慰めることにしました。
『俺は何処にも行かない。元就も、側から離さない(…てか、俺何回おんなじようなセリフを言うんでしょう…?お花ちゃんは一体何がそんなに心配なんですかね?)』
「…舜…!」
でも相変わらずきらきらして嬉しそうな元就は可愛い。最高です。
こうして見つめ合うだけで俺はかなり満足です…!至福のひとときだね。
『(ナチュラルに見とれちゃうぜ…って、でも元就の女装は見てみたいかも…いや、実に見たい…!)』
見せてくれるなら是非ともお願いしたい。
が!今ここで言い出すと、俺がここに残る条件みたいに聞こえちゃうかもじゃないですか!!そしたらまたお花ちゃんにいらんショックを与えてしまうかもしれません!そればっかりはマズいわけでして!
…このチャンスをみすみす逃すのは惜しいですが…、致し方ありません。
元就の女装はいずれ機を見てやってもらうことにします。
今日のところは麗しいお花ちゃん通常ver.をこってり堪能させていただきましょう。
『元就』
「舜さま…」
『(…あー可愛い)』
「(良かった…舜様に見捨てられた訳ではなかった…!)」
やはり俺の元祖癒やし。心のオアシス生活の潤い。
こうして見つめ合うだけで何かが満たされていくのを実感します。
輝きを取り戻して幸せそうなお花ちゃんは何度見ても良いものです!
俺お花ちゃんの側で過ごせて幸せです天帝さま。
ありがとうございます天帝さま!俺天帝さまの愛情を今ものすごく実感して…
「…〜〜っっ!!なんだよっ!なに二人だけの世界作ってんだよ!?俺すげぇいたたまれねぇじゃんかっ!!!」
…………あ。
「俺、簪つけた意味ねえし!!」
ごめん……元親のことすっきり忘れてたよ。
舜のバカと叫びながら走り去って行った元親の通った廊下には、点々と涙の跡が残っていました…。
本当にごめん元親。
ただほんのちょぴり目に入らなかっただけなんだよ…。
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