バレンタイン特別編





はい!みんなのアイドル香月舜です!

嘘です。えぇ大嘘ですよ。


冗談はさておき、今日はバレンタインデーですね!
まぁ元の世界で言えばですけども。


とりあえずバレンタインですよ皆さん!

いつもなら貰う立場の俺ですが、この世界では逆にお世話になってる方々にあげようかなーなんて考えております!

…え?貰えないからじゃないですよ?
だってただの習慣の違いだからね。そもそもチョコないしね。
そんなアホらしいことでは拗ねたりしませんよ俺は。


はい、そんなわけで!

今俺の手元にはチョコレート代わりの飴があります。ちょっとバレンタインっぽくはないですが。

で・も・!!
これはあの小太郎にも内緒で入手したという驚きの一品なのです!!女中さんエライ!

では女中さんの優秀さに感謝と賛美を捧げつつ、早速使わせていただこうと思います。

ありがとう女中さん、素晴らしいよ女中さん。ついでにみんなを呼んで来る役もお願いします!







【小十郎の場合】


…呼んできてもらったは良いものの、なんか、さ…睨まれてる?

俺怒られるような事したっけ…?


『………』


「………」


『………………』


「………………」


…って進むか!!!

睨、もとい見つめ合って(?)ても仕方ないっての!

893は本当は良い人、怖くないから頑張って俺!でもわかってるけど反射的にね!?
やっぱりね!?


『小十郎』


「は…」


だけども何とか名前を呼ぶと、すぐに返事をしてくれる。
それにほっとした俺は、勢いに乗って脇に置いてあった小さな包みを差し出す事に成功しました。


「これは…?」


『いつも、助かる』


特に政宗を抑えてくれたり剥がしてくれたり…ささやかですが(本当にめちゃめちゃささやかですけど。子供相手のご褒美じゃあるまいし)お礼です!


「………」


礼を言って中身を見て、ちょっと目を見開いた小十郎。


…もしかして、絶句してる?明らか固まってるよね??



…バレンタインの意味が広まってないとダメだ!!この感謝の表し方はダメ!失敗!!
だってただの飴だもん!!


一人目にして早くもつまづいた!!


どうする!?




………と、慌てていたけども。


『…小十郎?』


なんだか…小十郎の顔が、徐々に赤くなってきてるような…


「いえ…その、まさか香月様からこのような事をしていただけるとは…その、…夢にも思っていなかったもので…」


いつもより数段歯切れ悪くそう話す。視線は開けた包み、結構カラフルな飴に固定されたまま。


「…あ…その、…ありがたく、頂戴致す」


言いながら、とうとう首まで真っ赤になってしまった。
しかもさ、なんだか本当に嬉しそうじゃない?ただの飴玉なんかを大事そうに眺めて包んで懐に…


って


あらやだ。

この893かわいく見えてきちゃったよ。


なんか小十郎の新たな面を発見した気がするね。







【政宗の場合】


「香月!」


全力で走ってきた政宗くんは、全力で障子を開けてくれます。

毎回。

頼むから元就の城、壊さないであげて…。


「オレのこと呼んでたって…」


肯く。
いつもは引っ付いてる政宗ですが、今日は個別に会いたかったんで、元就や小太郎と一緒に人払いをしていました。

だから小十郎も政宗も呼んでもらう必要があったわけですね!


「…………初めて、」


『?』


「初めて香月の方から呼んでくれた…!」


…は?


「いつもオレから近づいてくだけなのに!!やっと香月の方からオレを求めてくれたんだな!!?」


………………。


そうなんです…。

この子…美人だけど、ちょっと頭弱いんですよねぇ…可哀想に。


いろいろと面倒くさくなってきたので、さっさと本来の目的を果たした方が良いかもしれません。

そう決めた俺はしがみついてくる政宗を腕に引っ付けたまま、もう片方の手で飴の入った包みを探す。


『政宗』


「…で、いつかオレと……、って、Ah?なんだ?これ…」


妄想大爆発していた政宗を遮ってそれを渡せば、


「こいつは…さっき小十郎が眺めてた…」


言いながら、すぐに開け始めた政宗が固まった。


「…!…まさか…こりゃあ」


『?』


「valentine dayなのかっ!?」


あれ?知ってんの政宗さん。

いいね〜話が早いね〜!


頷くと、それはもう嬉しそうに目を輝かせて満面の笑み…百点の笑顔……だったのに…って…、えぇ!!?


なんでそんな急に人殺しの目に!?


「…てこたぁ、小十郎の野郎…主より先に香月からpresentされたってわけか…?」


『…政宗…?』


なんか知らないけど危なくない!?ちょっと落ち着いて政宗さん!
早まるな!!短気は損気ー!

しかしゆらりと立ち上がるちょっと不気味な政宗をあえて止める気にはなれず…


「小十郎には、お仕置きが必要だな…?」


『(こ…怖ーー!!)』


にやりと笑う政宗に本気でどす黒いオーラを見ました…。

呼んだ順番に意味なんかなかったのに!

来たとき同様、全力で部屋から出ていった政宗の背中を見送りながら。


『(…小十郎……ごめん…)』


心の中だけでこっそり謝罪をしておきました。







【小太郎の場合】


数分前に小十郎の叫び声と盛大な物音が聞こえてきました。

…ほんと、とばっちり(?)すいません。
ごめんな小十郎。


「………」


政宗のちょっとヒステリックな制裁を想像していると、音もなく襖が横にずれていく。


『来たか』


小太郎が普通の場所から出てくるのはじめて見た。
いっつも風のようにサッと来てサッと出てくからさ。こんな風に歩いたりしてるのは珍しいよね。


『寄れ』


いつも通り少し離れて座る小太郎。
でも今日は近づいてもらわないといけませんから。

言うとほんのちょっと寄ってくれたけど、まだ遠い。

もっと、という意味で手招けば、それでやっと膝がつくくらいの近さになった。


『手を』


「……?」


俺から何かを渡すような仕草をすれば、首を傾げながらもそーっと両手が差し出される。可愛い。


そこに、俺の片手で掴めるだけの飴を落とした。


「…!!」


『いつも、すまない』


目一杯掴んだそれは、バラバラと小太郎の指の隙間からこぼれてしまったものもあるけど心配なし!

ちゃんと一粒ずつ紙で包んでおいたからね。俺が。


俺が!!(超重要&超強調)


感謝の気持ちをこめて一粒ずつ地道にね!
そりゃあーもーう面倒くさかったけども!!
小太郎の為と思ってさ!

だから畳に落としても大丈夫!安心落としていいよ小太郎!


「……………」


俯いて、いよいよ身を縮こまらせてしまったまま、小太郎ぺこりと頭を下げて消えてしまう。

…え、逃げられた?
いやいや、きっと恥ずかしがっているんだ、と思わないと辛すぎます。のでそう思っておきます。


その後で天井裏から、ゴンと鈍い音がしのも聞こえなかったことにしよう。







【元就の場合】


最後に呼んだ元就を待つ間、ある一カ所を見て思わず固まる。

柱にぶつかるほど慌てていたわりには、小太郎は畳に落とした分もきっちり拾っていったらしい。

確か落ちたと思っていた飴は、きれいに床から消えていた。

えぇ。消えていました。


…………。


……まずい!!


俺、大ピーンチ!!?


…話せば短いことながら、その…





…飴がなくなってしまいました…(小声)


いや、あるにはあるんですよ!?ほんと!

でも乗っけてたお盆に見える残りが四つしかないっていうか…さっき小太郎にあげた時に掴みすぎたっていうか……


あー…もーなんでこんな手でかいんだろ、ってかなんで元就最後にしちゃったんだろ…。

こんな事なら政宗たちみたいに小分けにしとけば良かった!
でも二人に渡したいくらいいっぱい包める紙がなかったんだからしょうがないじゃん!!


うぅ…でも今更だれかに返してなんて言えないし、買いに行ってもらう時間も…


「失礼する」


えーーーーっ!!!!!

来た!!?やばー!どうする!?どうなる!?

どうしようもないって!


もーなるようにしかなんないよね!?


『…入れ(ヤケクソだよほんとに…)』


静かに入ってきたお花ちゃんは、いつも通り俺のすぐに隣に座ります。そのちょこんっぷりに毎回のように無駄にときめきつつ、頭の中では必死に打開策を検索中。


『(…ここはもう正直に話す?いやでもそれじゃあ元就にあげるのがついでみたいだし、むしろついでは政…じゃなくて一番長くお世話になってるし真面目にあげたい相手だしでも他に丁度いいお菓子もあげられる物もここにはない……って、はっ!!!!)』


これだーー!!!

この窮地に打てる作戦はこれしかない!!
たぶん!!

一か八か閃光のようにひらめいた案に俺は縋ります!

たとえ藁でも!!


『…元就』


(俺にとってだけ)気まずい沈黙を破り、横にいる元就をふり返る。

身長の分ある差によって生まれる上目遣いが凶悪です!


『口』


「…え?」


『開けて』


困惑しつつも素直に口を開ける。
素直なのはいいけど、そんなに素直だと誘拐とかされちゃうよ!もっとお花ちゃんはお花ちゃんたる自覚をもって用心しないと!

…なんて言いつつそれを利用してる俺、悪い人だなあ。
たぶん俺が一番危ない人だよきっと。気をつけて!(?)


自分でくるんだ包装を(つってもちょっとひねっただけだけど)はがし、それを元就の口に入れる。

びっくりした元就の唇がほんの少し指に触れてその柔らかさに俺の方がビビったりして…あー、俺変態くせぇなあとか思いました。やっぱり俺が危ない人です。


『いつも、ありがとうな』


「…!!…そんな、」


でも男は急には止まれません。
あ、走り出してないよっていう突っ込みはなしでお願いします。

そのまま流れるようにほっぺにちゅー。
俺、こっち方面はそこそこ経験したことあります。

お花ちゃんと俺は一応相思相愛(?)だから、あーんとちゅーの二つで飴の不足分を補ったことになりませんでしょうか!?どうでしょう元就さん!?


…元就さん?


『…元就?』


「…!!!!、!??…!!!」


反応がないから顔を見たら、すごい驚いたまま固まったしまっていて、目がこぼれ落ちるんじゃないかってくらい開かれてる。


『…嫌、だったか?』


やっぱり駄目かと思ってそう聞くとブンブン首を振ってはいるけども。

…あ、今元就の顔が赤くなってきた。
うーん、椿のようだね。…って、落ちた。

じゃなくて!

元就が倒れちゃった!侍医ー!典医ー!
何でもいいからとにかく医者呼んでっ!!!
早く!!





…しばらくして意識を取り戻した元就に残りの飴(三粒)もなんとか渡したけれど、その日はそれ以降恥ずかしがって目を合わせてくれませんでした…。



てか数日間はそんな感じでお花ちゃんの笑顔が見れませんでした!



このバレンタインは失敗です!!ダメダメ!最悪!大失敗っ!!

もー俺の馬鹿!!





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