女王バチ22匹目





お久しぶりです香月です。


…いやね?お久しぶりと言いたかったんですよ。


本当は。


えぇ。実はまだ俺…お船の上にいます。


なんでかって?


それは海賊船に出会ったからです。


「日輪よ!」


そしてその船を我が家のお花ちゃんが絶賛攻撃中だからです。

確かに道を塞いではいるんですが、さすがにやりすぎじゃない…?砲弾がなくなったってさっき兵士さんが言ってたよ?


「おい毛利…あれ長曾我部の船じゃねーのか?」


「そうだ」


「だったら…」


「だからこそよ。あのような低俗な輩を舜に見せる訳にはいかん」


さっきから伊達さんたちの言葉も全然効き目がありません……ってみんな知り合いなの!?

じゃあ攻撃しちゃマズくない!?
伊達さんたちももっと本気で止めてよ!


「Ahー…なら仕方ねぇか」


「そうですな」


いやいやいやいやっ!!!
そんな説明で納得しないで!!全然理由として正しくないから!

あぁー…もー、やっぱり俺が止めるしかないんですね…。


『…元就』


呼ぶと、パッとこちらを振り返る。その花のかんばせは、丁度つぼみが綻んだみたいな柔らかさのある微笑みを湛えています。

…一瞬前まで海賊船に執拗な攻撃を仕掛けていたのが同じ方だとは思えません。
いやいや別人でしょ?


「どうしたのだ?」


『(…すっごい優しい声だし。この差は一体なに…?)…知り合いなんだろう』


「!…いえ、奴とはただ国が近いというだけで…」


『(え?じゃあもしかして領地を取り合ってる敵同士とかなの??だから攻撃してんの?)』


でも伊達さん達の会話からすると、そんな雰囲気でもなかったような…。

ちょっとだけ慌てたお花ちゃんにすぐ否定されてしまったので、確認の為にぐるっと周りを見てみると、曖昧に笑う皆さんがいるばかり。
兵士さんたちもその上官も元就の側近さん達も。果ては奥州の二人までがおんなじ笑い方をするもんだから、俺は一人でちっともついて行けません。

…えー?誰か説明してよー!?
のけ者は寂しいんですけど!


…とか、思っていたら。


「………(サッ)」


小太郎がなにやら一枚の紙を持って来てくれました。

えらくびっしりと書かれたそれ。受け取ったは良いものの、達筆すぎて最早俺には暗号な文です。でも優秀な小太郎が、成り行きとはいえ主な俺に無意味な物を渡してくる訳がありません。
たぶんきっと絶対。


そう信じて必死こいて解読した結果、この紙にはなんか同盟とか国同士の関係が書いてあるっぽい事がわかりました。

更に頑張った結果、伊達さんちと元就ともう一国この文の中に出てくる国名があることもわかりました。

…どうやらこの紙は、小太郎が俺の為に即席で作ってくれた簡易説明書のようです。


小太郎!!君はなんて優秀なんだ!お気遣いの天使!小太郎マンセー!
…ま、ちょっと字が上手すぎるけど。

しかし小太郎のその優しさを無駄にしない為に、俺は頭をフル稼働させてついに全文を理解いたしましたとも!!
しかも割と短時間で!!(当社比)

俺えらい。俺すごい頑張った。三日分くらい頑張った。


で!本題の内容ですが、要約するとこんな感じ。


〈四国の長曾我部は奥州の伊達と同盟を結んでいる。中国の毛利は長曾我部と対立してはいないがツンデレ〉


…勿論これは意訳ですが。小太郎はもっと難しい言い方してましたとも。

でも、なんか元就は、対応はちょっぴり冷たいものの、長曾我部さんとは親しい(?)間柄らしい。
戦とかそういう事はしてないっぽいです。


『(…ならやっぱり攻撃しちゃ不味いんじゃないの?)』


改めてそう聞き直そうと紙から視線を上げた、まさにその瞬間。


「元就ぃいーー!!」


鼓膜を破るようなものすごい音量が聞こえてきました。…真面目に意識が遠退きましたよ。えぇ。冗談じゃなくて。


「てめぇふざけんな!!俺の船マジで沈める気かよ!!?」


「うるさい。黙れ。貴様のような柄の悪い田舎海賊など瀬戸内には不要ぞ」


俺が手紙を解読してる間に例の海賊船はすっかり近づいていたらしく、今では並んで海上を走っていました。

わお。俺気付かなすぎじゃない?
自分で自分が信じられないよ。

しかもその海賊船のお方はあっさりこっちの船に飛び移った後、うちのお花ちゃんとごく普通に話しています。
やっぱり知り合いじゃん!

でもむしろ半泣きなのは半裸で眼帯のめちゃめちゃ逞しい海賊さんのほう。元就は怖がる(&悪びれる)素振りすら見せません。
お花ちゃんすげー。さすが一国の君主さま。肝が据わってるね。


そのなんだか珍しい光景をちょっと呆気にとられつつ見ていると、不意にばっちり海賊さんと目が合った。


「…!!!!?」


そしたらそれまで元就に押されて逃げ腰だった海賊さんが、俺を見たままピクリとも動かなくなったんですよ。ちょっと驚くくらい固まったから、どうしたのかと思って更に見ていたら。


「…!見るな!!貴様が舜を見るなど百年早いわ!おこがましいにも程がある!!」


「…いっ!!!」


そう言ってすかさず元就の蹴りが海賊さんの脚に決まりました。

えぇー!!?なんで!?どうしたのお花ちゃん!?突然そんな言いがかりなんかつけちゃって!?
涙目で向こう臑を押さえる海賊さんが不憫すぎるよ!


「貴様が見ると舜が穢れる!」


「…ってなんだそりゃ!?俺は妖怪か!?見るくれぇいいじゃねえか!減るもんじゃなし!!」


「減る!!貴様のような恥知らずの阿呆までがお目通りできるなどと知れたらご威光が減じる!!」


…なんか、お花ちゃんが凶暴化した。ってか、威嚇してません?トゲがすごいんですが…。
案の定、さっきまで半泣きだった海賊さんは元就の散々な罵倒に今度こそ泣く一歩手前ですよ。


「…なんだよ!ちょっとくれぇ紹介してくれたっていいだろ!?」


「誰が紹介などするか馬鹿め!貴様はさっさと四国でも何処でも行け!早よう去ね!!」


「……〜〜っ!!!」


あーあーあー。
もー泣かしちゃったじゃん。
お花ちゃん今日…つかあの海賊さんに対してやけに当たりがきついんだもんなあ。
それだけ仲良いってことなんですかね?


『(でもさすがに気の毒っつうかなんつうか…。お花ちゃん俺の部下らしいし、やっぱりちょっとくらいフォロー入れといた方がいいよね…?)…なあ』


仕方なく二人に寄って仲裁を試みようと思います。だって俺のお花ちゃんが嫌われるのは、俺も嫌だからね!

それにしても海賊さん、近づいて間近で見るとすげー綺麗な銀髪。こっちには毛染めなんかないだろうから、きっとこれが地毛なんだろう。
流石ゲーム。そしてやっぱりこの人もめっちゃ美形ですとも。ビバゲーム。


『泣くなよ(がたいも格好も良いお兄さんがさ。どうせなら男泣きとかの方が似合うと思いますが…)』


そうなんです。この人体格に反して結構静かにかなしげに泣くんですよ。音にするならシクシクとかポロポロみたいな?

意外すぎる。


「!!!!」


言ってつむじが見えるほど俯いてた顔を上げさせて指で涙を払ってやれば、海賊さんは裂けるんじゃないかってくらい目を開いた後で、すぐ音がしそうなくらい赤くなった。

カメレオンもびっくりですね。


「なっ…!?舜様!!?」


『元就も。そんなに気にするな』


海賊さんの何がそんなに気に食わないのか知らないけども。
相手に多少目につくところがあっても、ちょっと位なら目をつぶらないとさ。
あんまり冷たくすると嫌われちゃうじゃないですか。

ね、と念を押すような気分で表情筋を動かせば(軽く笑ったつもりですが結果は判りかねます)、小さく頷いてもらえました。


まあ、そこまでは良いんですが(仲裁も成功したっぽいですし…)。


なんだか奥州組(特に伊達さん)の視線が痛いような気がしてなりません。

何故?

何か問題でも…俺お二人に粗相とかいたしましたか…?
謝りますんでどうぞ斬らないでください。


しかしそういう事ではなさそうというか…命の危機とかじゃないというか…。


でも、なんとなくお城へ帰れるのはもう少し後になりそうなのかなあという予感はしてきました。


………早くお家に帰りたいです…。





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