はたらきバチ6匹目



――元就視点―→




突如として九州に出現した妖しげな宗教団体は、なんの前触れもなく、この中国に侵攻を仕掛けてきた。

…が、時期をみても必要をみても、この侵攻の目的がわからない。自身の治める中国に、何を求めてあの異国人どもは来たというのか。


『(何故いま攻めくるか……解せぬ…)』


だからといって、手をこまねいて侵略を許す訳にはいかない。来ると言うならば撃退するのみ。

万事計略通りに指示を出し、直ちに迎撃を開始させた。


しかし、


「元就様!!中央門、突破されました!!」


「左翼高台も陥落、すでに占拠された模様です…!」


運ばれて来るのは敗報ばかり。その体たらくに思わず唇を噛む。


『…使えぬ…!』


とは言え、自身の読みは決して違えていない。自軍の動きも悪くはない。それなのに、その予想通りの展開を狂わせているのはひとえに敵軍の士気の高さ故だ。

有り得ない程のそれに加えて、侵攻の勢いそのままをぶつけられては堪らない。


『(…むしろ、よく保った方かもしれんな)』


怯えて逃げ出さないだけましな駒だと認めざるをえないだろう。


『もうよい、この地は捨てる。これより我らは後退し、長期戦に切り替える』


このままではあまりにも分が悪すぎる。まずは奴らの士気が衰えるのを待たねばなるまい。


「元就様っ!!お逃げくださ…!」


立ち上がった瞬間、部下の悲鳴と轟音と共に最終門が砕け散った。


「見つけたヨー!タクティシャンゲットだゼ!グフフフフ…」


薄気味の悪いにやけ顔と共に、それと同じ髪型の集団が一斉になだれ込んできた。

瞬時に自身を守るように周囲を固めた側近も、奴の目には障害とも見ていないようだ。


『貴様が元凶か…!何故我が土地を荒らすのだ!?』


「そんなノ舜チャンのために決まってるデショ?」


『“舜チャン”だと…?』


「そ〜デス!アナタに、とってもイイお知らせ!!今、コノ中国を舜チャンに捧げると、出血大サービス!もれなく信者になれマスヨ?」


『貴様何を言って…』


「しかも?舜チャンの愛を広めるためのォ、戦略情報部隊長のポストもあげチャウ!!」


『…わけのわからん事を…』


「舜チャンのために働けチャウヨ?うれしーネ?うれしーデショ!?」


『とにかく我の話を聞…』


「オマケにィ、ザビーとお友だちになれマ〜ス☆ウフンv」





…ブチッ



「ぇ…ぶち…?」


近くの誰かが何かを呟いた気もするが、そんなことはどうでもいい。

ただもう、この男の馬鹿にしきった物言いに、目の前が暗くなっていくのを感じる。


「も…元就さま…?」


『………フ』


「ふ…?」


『フ、フフ…フ、フハハハハッ!』


自身でも気の短い方だとは思っていたが、まさか怒りで視界が遠退くものだとは知らなかった。


「ギャーーーッ!!!元就さまご乱しーん!!?」


「元就様!!どうか…、どうかお気をしずめてくだされっ!!!」


「オー♪タクティシャン、ごきげんネ☆よろこんでマ〜ス!」


「ふざけんなあ!貴様のせいだぞ!!??」


『フフ、…殺す』


「元就さまぁ!!お願いですから帰ってきてくださいぃぃっ!!!?」


「そちらは明智の領分ですぞおぉぉっ!!!!」


「あっちは楽しそうデース!ワタシたちも負けてられマセンヨ〜!ミナサン、すべては、舜チャンの為ニーー!!!!」


「イエスザビー!!ウィー!ラブ!舜!!!」


「愛ゆえニーー!!!」


「舜、オア、ダァーイ!!!」


「もう…もう、ヤケクソだあぁー!!元就様に続けぇぇっ!!!」


自軍の兵が攻勢に出たことで、その場は一気に混戦状態となる。両軍入り乱れての戦闘は、何かが吹っ切れたらしい自軍の有利で始まった。


しかし、怒りにまかせた反撃は、はじめこそその勢いで優勢に立ったものの、流石にこちらの体力の限界と共に、やがて敗色は濃厚になりつつあった。

数で勝る強兵に、真っ向から挑むなど愚行以外の何ものでもない。まして、日頃からそのような愚行を嫌悪していた己がそれをしたのだから、つくづく冷静を欠くものではないと思い知る。


『(ともかく、今はこの死地を脱さなければ…)』


反省よりも打開が先であると、輪刀を振るい、敵兵を倒しながら頭では採るべき行動をはじき出す。冷静さが戻ってきた頭は、残りの体力や部下の取捨選択をはじめていた。


まさにその時


『……!!?』


強烈な視線に背筋が凍りつく。
ほとんど反射的にその視線の主を探していた。


『(……なんだ、あれは…!?)』


すぐに見つかった相手は船上に。振り仰いだ事を、見上げてしまった事を激しく後悔した。

蛇に睨まれた蛙のように、ただ恐ろしくて仕方がない。まばたきすら出来ないのだ。
背中に冷たい汗が流れる。

戦闘中、思考さえも停止しかけたその瞬間は、まさに致命的だった。


「グッフッフ…よそ見はダメだヨ?タクティシャ〜ン!」


「元就様っ!!」


得意げな奴の声でやっと束縛が弛む。部下の叫び声に慌てて構えをとろうとしても最早遅かった。


鈍器のような武器を無防備な腹部に受け、たった一撃で意識を手放した。





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