中国征行1
『九州が統一されただと…!?』
その場にいた全ての者が耳を疑った。
青天の霹靂、不測の事態とは正にこの事。どんな時も冷静さを失わないかの君主、毛利元就でさえ驚きを露わにしたほどだ。
『馬鹿な!島津は何をしている!?』
「そ、それが…わずか十日で、落とされました…!!」
今度こそ元就は目を見開く。勇士揃いの島津軍が、半月程ももたないとは到底信じ難い。
ざわめく家臣らの声を遮って、跪いた耳役は何かを振り絞るように声を吐き出す。
「ザビー教も二日で瓦解、現在その軍は我が国に向かって前進中!早ければ、明日には着軍するかと…!」
「なんと!?」
『貴様、今まで何をしていたのだ!』
「戻れなかったのでございます!何故か海を越える事が出来ず…あれは、あれは人の業ではございませぬ…!!」
遠目にもわかるほど身を震わせるのは、おそらく眼前の元就を恐れているせいではないだろう。
続けようにも言葉にならないらしく、そこからはただ壁が壁がと繰り返すばかりで埒が開かない。
時間の無駄であると判断した元就は未だ狼狽える一同を見据えて宣言する。
『皆の者、直ちに軍を整えよ!』
「…!!ははっ!」
時間はない。
我に返った武将達は、一斉に駆け足で退出していった。
その場に残ったのは元就と耳役の二人だけ。君主として、元就がこの男から聞き出さなければならない事は山程ある。まずはそれを知らなけれは戦にさえならない。
そう考え、元就は震え続ける男に向けて足を踏み出した。
まだ、戦は始まらない。
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