夢のような楽しい時間
眩しいくらいに日の当たる庭。
ここは前に見た時とあまり変わりがない。
まぁ、建物自体は前に一度連れられて来た時とまったく変わっていないんだろう。
もうこの家に住んで長いらしいということが、俺の記憶にないだけで。
『すいません片倉さん』
そんな見慣れない自分の庭に、見慣れない相手が立っている。
「別にこれくらい構わねえよ」
言いながら、自分の代わりに大量の洗濯物を干してくれた片倉さんが空になったカゴを手にして縁側に戻ってくる。
あんまり主夫の似合う顔じゃないけどな。
「大体、今のお前じゃ竿に届かねえだろう」
笑われて、確かにそうなんだがとは思う。
どうもこの家の物干しざおは高い気がするし。
「まあ、小さくなる前は俺よりでかかったからな。それに合わせてあるんだろう」
そう言われたことには正直かなり驚いた。
だって目の前にいり片倉さんは、かなり背が高い方だと思うんだが。
自分のことながら、よく成長したもんだ。
「…それにしても、小さいな」
『?』
「いや、大輔にも子供時代があったってのがなんだか信じられなくてな」
…俺をなんだと思ってるんだ?
一瞬呆れたが、あんまりまじまじ見られるからそんなもんなんだろうかと思い直す。
確かに俺も、この人の子供時代なんて想像できないな。
なんて、そんなことを考えていたら。
『片倉さん…?』
「お?意外と重いな」
なんの前触れもなく抱え上げられていた。ちっとも重そうな素振りがなかったのは気のせいか?
それにしても、やけに視界が高くて妙な感覚だな…。
『とりあえず降ろしてください』
「そいつは飲めねぇ提案だ。お前を抱き上げる機会なんざそうないからな」
珍しいチャンスだと笑う。
そりゃあ俺の方が片倉さんよりでかくなるなら当たり前じゃないか。
「政宗様たちが子供姿の時にお前がよく抱えてたと思ったが、今ならわからねえでもない」
しかしじっと顔を見ていても、平然と笑ったままで悪びれもしない。むしろ昔に戻ったようだと片倉さんはやけに嬉しそうだ。
下ろしてくれる気はさらさらないらしい。
仕方なくて、抱えあげられた格好のままで上機嫌に語られる伊達さんの子供時代の思い出を聞いていたが、やっぱり子守の似合わない人だと思った。
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