手を引いてリードを





細い体を抱きしめる。
後ろから手をまわして、抱えるみたいに。


ただそれだけなんだが。



『…なんで笑うんです?』


別におかしいところもないはずなのに。
俺の前にいる男、竹中さんはさっきからずっとクスクス笑っている。


「だって、しがみつかれているみたいだよ」


まさか君にしがみつかれるなんて、と、更に笑みを深くする。


「思ってもみなかったからね」


『…前からこうやってたでしょうが』


そう言えば、驚いたように目を開く。
そんなふうに首を回されると、顔の距離がかなり近くなってしまうんだが。


「覚えていないんじゃなかったのかい?」


『俺ならどうせ、やりやすい方法でやってるんだろうと思ったんで』


記憶を読むまでもない。
案の定、その通りだったみたいだし。


「君、本当に子ども?」


『しがみついてるようにしか見えないんでしょうが』


大人なら、抱きしめるような体勢だってのにさ。


「…もしかして、拗ねてるのかな?」


『すねてません』


「本当に?」


『うそついてどうするんですか』


こんなことで。
そう言ったら、確かにねとあっさり頷いた。


「つまらないな」


『は…?』


「だって大人の君は絶対拗ねたりしないだろうから」


大人なんだから当たり前だろうと思うが。


「僕だけしか知らない大輔を見れたと思ったのにな」


そう言ってまたクスクス笑う。
ちっともつまらなそうには見えないが。

なんだかドキドキしてしまったのはどうしてなのか。


『(…この人は男…だよな)』


「どうしたの?」


まじまじ見つめていたせいか、不思議そうに見返される。


『…なら、すねてるってことにしときます』


「……びっくりするくらい子どもらしくないね」


…せっかく譲ったってのに。

楽しいからもう少しだけしがみついていろと言われて、治療が終わっても離れずにいる。

竹中さんは美人だけど意外にわがままかもしれないと初めて知った。





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