新年2





用意されていた着物を身に纏い、女中に案内されるまま大広間へと通される。居並ぶ高向の一族を越え、上座に幼児が並ぶ光景は何とも異様なものがあるだろう。


「(さすけ!…ともあきどのがおるな!)」


「(ほんとだ…けっこうしたのほうだね)」


「(…あぁ?アイツがいねーな?だいすけといっしょにきたんじゃねぇのか?)」


「(…俊基でしたら末席におりましたぞ)」


他の列席者同様に両隣あたりで話しあう。といっても、せいぜい主従間で少々の会話があるだけだが。


「御当主の御来着にございます」


入り口に付いていた一人がそう言った瞬間、ざわつきもなくぴたりと座敷が静まり返った。

わずかな衣擦れの音が聞こえ、一拍してすらりと襖が開かれる。入ってきたのは威風堂々とした壮年の男。
その現当主の後に続いて大輔も姿を見せる。紋付き袴の正装をした二人が席につき、一気に空気が引き締まった。


「明けましておめでとう」


「今年も皆が揃って新年を迎えられて何よりだ」


響く声はよく通り、耳に良い声が年始の挨拶を告げていく。

しかし元親たちにとっては内容がどうのとかいうところではなく。


「(あれがだいすけの父上…!?)」


「(まさしくそうであろう…同じ相をしている)」


「(つうかよ!にすぎだろ!?まるでいきうつしじゃねえか!)」


「(だな…こえもしぶくてcoolだぜ…)」


「(………ポッ)」


「(大輔が年をとるとああなるって見本みてえだな…)」


「(うー、できたらそのへんかをさ?となりでみつづけたいよねー)」


「「(どうかんだ!)」」


「(はれん……!)」←強制封印


「(…ダンナのかんがえかたのがはれんちじゃない?)」


あまりにも大輔とその父親が瓜二つすぎたことにより、当主の挨拶そっちのけで話がはずみ、結局誰一人まともに聞かないうちに宴が始まった。

和やかに酒を酌み交わす大人たちに混ざり、不本意ながら茶で乾杯する子供の集団。子供姿だからと言うよりも、前日に飲み過ぎた前科があるせいで、さすがに全員とも招かれた席で酒をくれとは言い難い。


『おはよう、と、明けましておめでとう』


「だいすけ!」


仕方なしに大人しく食事をしていると、開始から十分も経たないうちに上座に居た大輔が皆の方に近づいてくる。


『勝手に連れてきて悪かったな。大丈夫だったか?』


「大丈夫。だいすけはいいかしんをもっているようだね」


「さしいれもたすかったぜ!すっかりなおっちまったよ!」


半兵衛と元親以外も大きく同意する。はじめこそ驚いたものの、実際この家に来ても何一つ困ったということはなかった。
まさに至れり尽くせりで、自国にいるより楽だという者もいるくらいで。


「それより、あの方がだいすけの父君か?」


今更という気もするが、ここははっきりさせておくべきだろう。
元就の質問に全員が身構える。


『ああ。やっぱり似ているか』


「そっくりだな」


全員が頷くのを見ても、慣れているのか大輔はそれほど反応しない。今までも散々言われ続けてきたのだろう。


「では、ほんじつはだいすけどののははぎみも、このばにおわすんでござるか?」


『母親は丁度みんなの正面に…ああ、紫の着物を着ているな』


かなり上位の席を指して言う。
しかし、当主夫人としては低すぎる座席である。


「きれいなひとだね」


「さすがだいすけのmotherだな」


その事について佐助などは表情を変えなかったが、幸村などは疑問を隠しもせずに表してしまう。

大輔は軽くその頭を撫でて、一言。


『当主夫人というよりは、妹の役割が強いからな』


「………は…?」


『彼女は当主の妹だ。俺の母親であり叔母でもある』


「「「「…!!!??!?!?!!!!!??」」」」


全員の脳裏に近親相姦の四文字が浮かぶ。


『父も、自身の伯母と先代の間に産まれている』


もはや呆然と立ち尽くすばかりの武将たち。ツッコミを入れるタイミングも逃してしまった。

謎に満ちた高向一族。

そこで迎えた新年は、全員に衝撃を与える経験になりました。





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