年越し





深夜、すでに早朝と言って良いか。夏ならもう後一時間もすれば空も白もうかという時刻だ。


「政宗様たちはどうした?」


ありえない程たまった皿を、片付けに行っていた小十郎がリビングに戻って来る。


『駄目だ。結局みんな寝ちまったよ』


小十郎が帰って来て、開口一番にそう聞くのも無理はない。さっきまでここは嵐の真っ只中だったのだから。

今回の大晦日は俊基と智彰の乱入で途中から馬鹿騒ぎに変わってしまって、それが昨日の夕方頃からだから洒落にならない。

子供に酒なんか勧めるなと言ったところで聞く相手じゃなし。おまけに子供らも本当の子供じゃないから、自発的に飲みたがるしで始末が悪い。俊基を悪乗りさせるばかりだった。


その為に結局、意識のあるまま日付を跨げたのは俊基と政宗、小太郎と佐助の四人。
幸村・元就・智彰は早々に脱落し、なんとかやり過ごしていた半兵衛も最後までは逃げ切れず、逆に正面から受けきった元親も十二時前にリタイア。

残ったのは初めの四人だけというわけだ。
「風魔もか?」


『あぁ…小太郎には悪い事しちまった』

小太郎はあまり強くない俺の盾になってくれたせいで、他の三倍は飲んでしまっていた。止めても聞かず、頑張ってくれたのはありがたいが、さすがに子供姿では無理があったらしい。遂に真っ赤になって潰れてしまった。


「あいつも酔ったりするのか…なんつーか、意外だな…」


確かに忍ってのはそれだけで酔わないようなイメージだった。

その点では佐助もそうで、だがこちらはもう少し忍(?)らしいだろう。
いつの間に空けたのかわからないが、気がつけば佐助は大量の空き瓶に囲まれて眠っていたのだ。小太郎とは対照的に静かな幕引きである。


「ひぃふうみ…っと、なんだ?足りねえな」


『俊基がさっき半兵衛を抱えて上に行ったから、今いるのは七人だけだ』


あいつは今頃、俺のベッドでも勝手に使っているんだろう。前から好きに上がり込んで昼寝してくような奴だったからな。

その俊基と最後まで飲み比べていた政宗も、ついさっき、床に沈んでいくところを目撃したばかり。初日の出を見るとあんなに意気込んでいたのだが…。まあ、無理もない。


「あいつか…。ったく、散々引っ掻き回した挙げ句、一人だけ布団に行ったのか」


呆れ顔の小十郎に、返す言葉もない。
フォローしようにも俊基が気ままなのは俺にも否定できないからな。


『悪い。皆を運ぶのは俺がするからよ』


先程小十郎が政宗達と、おまけに智彰の分まで布団を敷いてくれていたのを知っている。なんて手際の良いと感謝した反面、そんな気遣いまでさせてしまうのがひどく申し訳ない思いもある。

さっきまでしてくれていた洗い物も、うちの馬鹿二人が宴会のような大騒ぎをしたおかげでとんでもなく量が増えただろうと思う。その為に今まで時間がかかっていたんだろうから、もう、頭が上がらない。


「いいんだよ。政宗様を含めて、ガキ共は大輔を好いてんだ。お前がいなけりゃ宴会も始まらねえだろうが」


『………』


…内心の謝罪が聞こえていたのかと思うようなタイミングで言われてしまう。


「これだけ長く世話になってんだ。いい加減お前の考えることだって読めるぜ」


『…なるほど』


声に出さなくても会話になるのは何となく居心地が悪い。たった一言返すのが限界だった。

しかし、たかだか数ヶ月くらいでそんなことはないと思うが。というか、読まれないような表現を心掛けているつもりなんだが…。

相手によっては流石に通用しないのか?

…小十郎が特別なんだと思いたいな。

「だが…あいつが大輔の布団を使ってるとしたらどうすんだ?お前が客間で寝るか?」


『いや、俺はすることがあるからよ。今日はこのまま徹夜だな』


ベッドは広いから俊基や半兵衛がいるくらいなら問題なく眠れるが、その前に寝る暇がなさそうだった。


「なんだ?手伝うか?」


『よしてくれ。そこまでさせたら落ち着かねぇよ』


只でさえもう十分に手伝ってもらっているのだ。この上自分の徹夜にまで付き合わせたら、借りが増えすぎてしまっていけない。


「あのなぁ…お前は何遍言わせりゃ気が済むんだ?散々世話になって、助けてもらってんだ。そいつは俺らの台詞なんだよ!いい加減にちったぁわかれってんだこの野郎…」


言われ、じろりと睨みつけられる。
だが、元を正せば智彰が原因な訳だから、気にせず過ごして欲しいのだが、これはもう性格だろう。
俺が言い出す度に、こいつだって同じだけ繰り返すんだからな。


『…ともかく、皆を寝かせるのが先だ』


「…そうだな」


とりあえず一旦そう逃げたものの、しかしこうなっては俺の方で諦めるほかない。俺だって納得は出来ないが、この件に関しては何度問答をしても小十郎は折れないのだから。

ごく小さく嘆息する。
小十郎が気付いているかは知らないが。


『…小十郎には何だかいつも世話になっちまうな』


悪いと軽く苦笑すれば、気にするなと返される。


「好きでやってんだ。それに、新年の初めからそう何度も謝るもんじゃねえだろ」


言われてようやく、年が明けていた事を思い出す。そういえば少し前に大晦日は終わっていた。慌ただしすぎてとてもそれどころではなかったから、まだ挨拶の一つもしちゃいないが。


『…ならまあ、この辺で止めておこう』


この分なら、今年初めの挨拶は、小十郎とすることになるだろう。

それは何となく、一年の出だしに丁度良い気がするよ。





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