クリスマス前





約束の服を揃える買い物の最中、ある店の前で足が止まる。

どうやら、小十郎好みのデザインらしい。
俺もこういう着くずしてもいいような服は嫌いじゃねえな。


『中も見たらどうだ?』


「…そうだな」


突っ立ったまま動こうとしない小十郎を促すと、それでようやく店内に入る。
なんだか妙な間があったが、服を見る姿はいつもと変わらない気もする。


だが、少し距離をとって自分用の物を選んでいるうちに、ふと気付いた。

小十郎の目線が何度か入り口付近に戻るのだ。早く出たいのかと思えばそういうことでもなさそうで。

気になってその向かう先を辿れば、


『(…なるほど)』


と思う。


どうやら小十郎はディスプレイのコートが気になっているらしい。

確かにあの黒に限りなく近いグレーのコートは、既に貫禄を備えている小十郎にはよく似合いそうだ。


しかし、確かに常識のある小十郎が言ってこない程度には、値も張る品物ではある。


『(というより、はっきりと一桁違うんだが…)』


値段は大体…ブランドの鞄が一つ分ってところか?
流石に高位の者は目が高い。それだけに、気に入ったのかもしれないが。


とはいえ元の世界ならば、小十郎にとっては躊躇いもなく買える額だろう。

それを躊躇わせるとなると申し訳ない。


『(変に金銭感覚つけなけりゃよかったな…)』


買い物を頼んだりしているから、もうすっかりこちらの物価は身についてしまったはずだ。

そうなると、居候の立場ではなかなか言いづらい額なのだ。知らない内なら気付かずに言ったかもしれないが。


『(政宗なら言うかもしれねえけどなぁ…)』


ちらちらと何度も見るわけではなく、たまにじっと眺めるところが、本当に気に入っているのだろうと思わせるではないか。


「大輔」


そんな事を考えるうちに、選び終わった小十郎が戻ってきた。

勿論、決まったと抱えてきた何着かの中に、あのコートがあるわけはない。


『これだけでいいのか?』


「これだけありゃ十分だろ」


…欲しいと言う気はないんだろう。



ま、俺でも言わないけどな。


だが今は俺がホストだ。呼んだこの世界で客人に不満を残す訳にはいかねえよ。



そう考えて、試着させている間に店員を呼ぶ。


『あのコート、今試着してるやつのサイズでプレゼントにしてくれるか』


「…え?よろしいのですか?」


『いい。知られると面倒だ』


不思議そうな顔をする店員を無視してカードを渡す。さすがにそこまでの手持ちはないからな。


『一括でいいから』


色々と聞きたいこともありそうだが、説明している時間はない。有無を言わさず促せば、流石に慣れた様子で下がって行く。


『(小十郎の試着が終わる前に包み終わってくれないと、絶対に反対するからな)』


早めに終わらせてくれよ。





「あ?大輔も何か買ったのか?」


内心少し心配だったが、なんとかバレないうちにコートは箱の中にしまわれたようだ。
小十郎の会計と同時に袋を受け取る。


『気に入ったやつがあったからな』


お前が。


「へぇ?珍しいな。何を買ったんだ?」


小十郎の方がよく知ってると思うがね。


『…まあ、そのうち見せてやるよ』


今日の夜くらいにはな。


喜んでくれとは言わないが、せめて嫌がらないでほしいところだ。




かなりまとまった出費になったが…まぁ、早めのクリスマスプレゼントだと思えばいいだろう。





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