訪問四ヶ月後6





俊基の持ち込んだ騒動もなんとか落ち着いてきた。


…のは、実は当日ではない。信じがたい話だが、あれから何日かした後だ。

何かにつけて誰かが蒸し返す上に、どうしてか毎回俺が責められることになるから、当人の俺が落ち着かせるのは本当に一苦労だった。


まあともかく、そんな風に慌ただしかったせいで予定がずれてしまってはいたが、今朝ようやく元親を元の姿に戻すまでにこぎ着けられた。

これで残るところは後三人。
なんとか折り返し地点を過ぎたと言えるだろう。



「だいすけ」


元親の着替えを待つ間、リビングのソファにいた俺を見つけて元就が寄ってくる。


「おわったのか」


さっさと膝に上がってくる元就に頷きながら、これから服を買いに行くのだと告げた。


「フン、ヤツにはおんなもので十分よ」


『女物…?』


「元親は姫若子だからな!」


そう言って背もたれの後ろから抱きついてきたのは政宗。急に首に腕が回されたもんだから、何事かと思ったぜ。


『なんだ姫若子ってのは?』


「おさなきころ、あれはそう呼ばれておったのだ」


「武芸はやらねーし、なまっちろいってんで、そう呼ばれてたのさ」


なぁ?と政宗が言えば、元就も頷く。

しかし…あの元親が?想像もつかないが…。
何しろ子供姿でも元親は幸村と張るくらい活発だったのだ。同じ格好で大人しい元親は全く思い浮かばない。


「いちじはふりそでさえ着たときくぞ」


「おい!!てめっ…元就!ばらすんじゃねぇよ!」


その時ちょうど着替えて下りてきた元親が珍しく顔をしかめて走り寄ってくる。もし二人が俺にくっついていなかったら、うっかり手でも出ていそうな雰囲気だ。


「♪〜princessの登場だな」


「政宗!ふざけてんじゃねぇぞコラ…」


英語は知らなくても、からかわれているのは分かるらしい。

顔が赤く、若干こめかみに血管も浮きはじめている。恥ずかしがっているのか怒っているのかは微妙なところだろう。

さすがにこれ以上放っておくのもまずいかと思い、政宗のホールドを解いて元就をおろす。


『そろそろ、行くか』


「大輔!!」


『留守番よろしくな』


不満を漏らす政宗と元就をリビングに残し、背を押すようにして元親と外に向かった。




車庫、いつもの車に手をかけるより先に、元親の足が動かなくなる。

ぴたりと止まった元親を無理に押すつもりもないから、仕方なく後ろの俺もそこで足を止めた。


『どうした?』


「……大輔は」


うつむいたまま出される声は歯切れが悪く、ほんの少し聞き取り難い。


「…大輔には、知られたくなかったのによぉ…」


さっき政宗達が言っていたことだろう。
話自体は特にそこまで恥ずかしい話でもないと思うのだが。

それでもやはり、本人にとっては気になる事なのかもな。


『子供の頃の話だろう』


「だってさ…やっぱ、その…好きなやつには格好わりぃとこなんか、知られたくねぇじゃねぇか…」


銀色の隙間から覗く耳が赤い。ポツポツ呟く声も、同じように気恥ずかしそうで。

確かに、元親の言った台詞はよくわかる。
俺だってできるならば、好きな相手には良いところだけを見せたいさ。

残念ながら、あまり上手くいった試しはないがな。


『…ならまあ、大抵の事は笑って流しておこうぜ』


既に癖になった動作で、目の下で揺れる銀髪をかき回す。こんなに大きくなったくせに、中身はどうして可愛いままなんて反則だろう。


『その方が、格好良いと思うぜ。俺は』


「…大輔」


どうしたって昔の自分は変えようがないからな。
こだわりすぎる方が格好つかねえよ。

ま…たぶんだが。少なくとも俺はそう思って自分に言い聞かせている。


わずかに振り向いた元親の頭をもう一つ撫でて、逆の手の鍵を持ち直す。持ち替えた鍵はいつもの車のものじゃない。


『姫なら、特別優しくしなけりゃな』


「え…?」


ぱっと顔を上げた元親の脇を抜けて、更に車庫の奥に進む。
車を通り過ぎる俺に、首を傾げる相手について来るよう合図をし、ある場所で足を止めた。


「…!これ…」


『乗せてやるよ』


元親が前から気にしていた“バイク”。
子供姿の時には躊躇いがあったが、大人の大きさに戻った今なら、後ろに乗せても安心だろう。


「いいのか!?」


『俺の後ろで良ければな』


「良いに決まってんじゃねぇか!!」


そう言ってニカッと笑う。
まだうっすらと顔が赤いのはご愛嬌だ。

エンジンをかければすぐに後ろに跨ってくる。
考えてみれば、元親たちが来て以来久しぶりにバイクを使うかもしれない。それまでは車よりもよく乗っていたのだが。


「俺がはじめてだよな!?」


嬉しそうな声に軽く頷く。買い出しに行くには正直、車の方が都合が良いから、他の武将たちを乗せたことはない。

だが今日だけは。


『特別だって言っただろう』


そう答えれば、腰にしがみつく元親が満足そうに笑う。
意外と同じような事を考えているんだろうかと思う。



ヘルメット越しに小さく、姫若子で良かったと聞こえた気がした。





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