訪問四ヶ月後1





手の中の石が割れた。
カタカタと音を立てて、指の隙間からその欠片が落ちる。

「…おお〜」

正面の男……たった今、元の姿に戻ったばかりの佐助が感嘆の声をあげた。

「すっごいね、大輔ちゃん」

…発音が違う。
これが本来の声なんだろうが。

『違和感は?』

「んー…ない、かな…?たぶん。平気そう」

『そうか。後で何かあれば言ってくれ』

立ち上がり、手を閉じたり開いたりしながら確かめている。感覚を確認しているんだろう。

まあ、違和感なんかないと思うが。
小十郎に付き合ってもらってまで完成させた術だ。精度に自信はある。

『服は適当に買ってきてあるから、合いそうなやつを着てくれ』

そう言いおいてクローゼットの扉を開けた。自分の服も入ってしまっているが、着れるなら着てくれても構わない。

『今着てる着物はその辺に置いといてくれればいいから』

「え、大輔ちゃん行っちゃうの?」

『…もう一人でも着られるだろ?』

俺には他人の着替えを眺める趣味はない。
それに、基本的に今の佐助は着物を羽織って前をあわせているだけで、“着ている”とも言えない格好だ。その上、まあ…はっきり言えば下着も着けていない。
子供サイズの服を着せたまま元に戻す訳にはいかないからな。

だからその状態で着替えをするなら、つまりは全裸を見なきゃならない。

「…あっはー…ですよね〜」

『下にいるから』

そう言って佐助を残し、俺はリビングに移動した。







「終わったよ〜ん、大輔ちゃん「おおおぉ〜〜っ!!!さすけっ!!ほんもののさすけでござる!!」」

着替え終わった佐助が入って来てすぐ、となりに座っていた幸村が立ち上がった。
勿論、いつも通り叫ぶのも忘れない。

「そりゃないよダンナ、俺様はずっと本物だって」

しかし佐助が慌てるはずも無く、その幸村をあしらってにっこりと笑う姿は相変わらずだ。飄々とした態度は子供の時もそうだったが、やはり元の年齢に戻った方がしっくりくる。

駆け寄った幸村を両手で持ち上げ、佐助は自分と同じ目線に合わせていた。

「うわ、ダンナ軽っ!?ちっちゃ!」

「なっ!?ちがうぞ、さすけがおおきいのだ!」

「いやいや、違いませんて。うわー…俺様もこんなちっちゃかったんだー…」

まじまじと手の中の幸村を眺めて呟く。
しばらく見た後、佐助は幸村を腕に抱え直し、そのまま俺のいるソファに向かってよってきた。

「これじゃあ大輔ちゃんじゃなくても過保護になるよねぇ「だいすけどのはすごいでござる!!ほんとうにたったすうじかんで、さすけをもとのすがたにもどしてしまわれるとは!それがし、かんぷくいたしました!!」」

純粋な眼差しで見上げられてしまった。実際は戻すまでに数週間はかかっているが。

それはともかく、一つだけ教えてほしいのだが、どうして今日の幸村は、佐助が俺に話しかけると同時に話し出すんだ。
正直、さっきから佐助の声がほとんど聞こえていない。

興奮しすぎてるのか?

佐助もそれは気付いているらしいが、今のところはちらりと睨むだけですましている。
当然、幸村はわかっていない。

『…佐助が大丈夫そうなら、もう一人で遠出してもいいぞ』

もちろん遠出にも限度はあるが。
子供の時も、歩いて五分程度の買い物なら既に佐助は一人で行っていたから、とりたてて大きな問題もないだろう。

「え、いいの?「なんと!?だいすけどの!それがしもでかけてみたいでごさる!!」」

今日三度目の副音声が入り込む。
この音声は副音声の方が音が大きいのが特徴だ。

三度目にもなると、さすがに佐助の笑顔もやや冷たい。

「…ダンナ?ちょっとだけ静かにしててもらえる?俺様も大輔ちゃんと話したいんだよねぇ」

ひやっとするような声で言われ、ぴたりと幸村も黙りこむ。頷いただけで微動だにしなくなったが、佐助はまだそれ程怒っているわけではない。
この声が序の口だと知っていて、程度が軽いうちにすませようと思うくらいには怒られ慣れているという事なのか。

『俺と行くだけだと回数も限られちまうだろ』

一日中家に閉じ込めておかれるのも退屈だろう。
子供姿の時は仕方がなかったがな。

「なら大輔ちゃんの代わりに買い物とかできるね」

「おお!!それはよいな!」

「でしょー?ダンナもそう思うよね」

「うむ!!だいすけどののおやくにたてるではないか!」

そういうことじゃないんだが、言い直す前に幸村が大きく肯定してしまう。
なんとなくタイミングを逃してしまった。

「でも…」

『うん?』

急に佐助の空気が変わる。その違いに一瞬どきりとした。

「やっぱり、大輔ちゃんとも出かけたいな」

声が、やけに頭の芯に響く。
可愛いセリフを言っているはずなんだが、やらしさが先に立つから不思議なものだ。
幸村の耳をしっかりと押さえているあたりが佐助らしい。

「ね?」

首を傾けてにっこりと笑う。
そこまでされたら、逆らう気なんか起こる訳ないだろう。


佐助は子供の頃より甘え上手になった…、ような気がするな。









(「…着られる大輔ちゃんの服を、すっごい探したのは俺様の秘密。。」)





- 42 -


[*前] | [次#]
ページ:




目次へ
topへ



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -